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「何回言ったら分かるんだよバカ神崎!」




夕焼けでオレンジに染まる教室に何回目か分からない怒鳴り声が響く。もうやだ、帰りたい。そう思ってもブツブツ文句を言ってるこの人がさしてくれない。文句言うなら教えてくれなくていいよ、涙目で訴えても気付いてくれない。知らなかった、狩屋くんがこんなスパルタだったなんて。




「教えてくれるのはすごくありがたいんだけど、そんな怒鳴られちゃ…」
「怒鳴られたくなかったら理解しろ!」
「理解出来たらこんな苦労しないよ…」
「だー!イライラする!」




頭を抱え込みぐしゃぐしゃと乱暴に掻きむしっている姿に心が痛んだ。今日の狩屋くんは何一つ悪くない。むしろ勉強教えてくれているんだから、はなまるをあげたいくらいだ。憎むのは私の理解力のなさ。ちょっとお母さんとお父さん、もうちょっと出来のいい子に産んでくれないと困るよ、私が。




「もうほんと…、ごめんなさい」
「謝る前にこの問題解け」




狩屋くんの周りから黒いオーラが漂っている。いつにもまして目が怖いですよー狩屋くーん。っと、ふざけている場合じゃないや。私のためにも狩屋くんのためにも、この問題を解かなければ。なになに?…ん?まずこの問題の意味が分からないや。




「神崎ってけっこうな詐欺だよな」
「…詐欺とは?」
「見た目そんな頭悪そうに見えねぇのに…てことだよ」
「それってすっごい損」




  見た目頭悪そうで本当はいいなら、プラスなのにその逆とかマイナスしかないじゃん。あんまり見た目のこととか分かんないけど、そう見えるんだったら嫌だなぁ。余計なことを考えていたからなのか、シャーペンの上の部分で頭をつつかれた。早く手を動かせ、と。




「そういや私思ったんだけどさ、」
「なんだよ」
「狩屋くんて意外と優しいよね」
「……は?」
「ほら、今だってこうやって教えてくれてるし!厳しいけど…」
「…勘違いしてるみたいだから言っておくけどな…」
「勘違い?」
「俺は別に神崎のために教えてるんじゃねぇ!先輩に言われたから仕方なくしてるんだよ!だから勘違いすんな!」




  びしっと指をさされてそう言われる。人に指さしたらダメなんだよー。狩屋くんは別に私のためなんかじゃないと言い張るけど、説得力がなかった。先輩に言われたからっていっても、天馬くんとか葵ちゃんに変わってもらえばよかったのに。そんなことを言ったらもっと怒りそうだったので辞めておいた。




やさしい瞳の怪物さん







20120222