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ドッテーン。そんな効果音がつきそうなくらい、私はハデに転けた。しかも狩屋くんの真ん前で。
さかのぼることほんの少し前。私はマネージャーらしく選手全員分のドリンクを用意していた。そこに現れたのが狩屋くん。顔を洗いに来たのか私のいる水道にそいつは現れた。私を見たときに、げぇっと嫌な顔をしたのはこのさいスルーする。毎度おなじみの口喧嘩を交わしたあと、ドリンクを全て入れ終えた私はグランドへ戻ろうとした。選手全員分のドリンクの本数を持とうとして。「それ一気に運ぶつもりかよ」「けっこう力あるんだから」そんな会話も交わしたもんだから余計に今の状況が嫌になる。ここから先は冒頭を見れば分かる通り、私は重さに耐えきれず転けた。




「……」
「……」
「…痛い。」
「言わんこっちゃねぇ、ほら」




差し出してきた狩屋くんの手を素直にとる。引っ張られて地面に完全密着していた体が起き上がる。膝に鈍い痛みが。見ると痛々しく擦っており、そこから血が流れていた。しかもけっこう大量。普通に痛いけどそんなことよりもドリンク拾わなきゃと、ぶちまけたドリンクを拾って再び運ぼうとすれば狩屋くんの静止の声がかかる。




「俺が拾って持ってくから。お前ケガしてんだし、」
「え、いいの?」
「ほら、戻って手当すんぞ」
「あ、ありがとう…」




水道で傷跡を洗ったあと、ズキズキ痛む膝を我慢しながら狩屋くんに着いていく。てっきり狩屋くんのことだから、はっきりばっちり転けたところを見られたらドジだのなんだの言われるかと思ってたのに。
グランドにつけばドリンクを降ろした狩屋くんにベンチに座れと命令される。言われた通りベンチへ腰掛けた。




「いっ!沁みる!沁みるよ狩屋くん!」
「うっせぇ、我慢しろ」
「我慢するけど…っ」
「はい、終了。」




絆創膏を膝に貼りそう言う狩屋くん。たくっ、世話かかる奴と文句をこぼしてはいるが、こうやって手当をしてくれる狩屋くんの優しさは知っていた。




「マネージャーのくせに選手に手当されてどうすんだよ、」
「ごもっともです…」
「後先考えずに行動しすぎなんだよ」
「…言い返せません」




反省してます。してますとも。確かにこれじゃ選手とマネージャーの立場が逆だよね。ごめんねと頭を下げて謝れば、まぁ神崎らしいっちゃ神崎らしいけどな、と。フォローのつもりかもしれないけど、全然フォローになってないよ狩屋くん。




「ともかくありがとう」
「へぇ、素直だな」
「元から狩屋くんよりかは素直なつもりなんだけど…」
「なに?こかされたいって?」
「言ってない言ってない言ってない!謝るから乱暴はやめてー!私ケガ人!」




無理やり座っている私を立たそうとする狩屋くんに必死に声をかける。ああ怖い怖い。冗談だとは思うけど怖い怖い。狩屋マサキ恐るべし。
フィールドから霧野先輩が狩屋くんを呼ぶ声が聞こえ、狩屋くんは練習に戻っていった。そのときに見えた背中が、前から見ていた背中より少し大きく見えたのはなんでだろうか。




パンケーキに飛び乗って







20120212