Let's! | ナノ

作業を始めてどれくらい経ったのだろうか。山になっていたプリントはだんだん終わりへ近づいてきていた。まだ残ってるのか。やっとここまで終わった。そんな二つの対照的なことを思いつつ、ずっと続けているプリントをとめる動作を一旦中止し時計へと下を向いていた視線を変えた。




「ええっ!もうこんな時間!?」
「げっ、外もう真っ暗」




狩屋くんのその言葉で時計から窓へと視線をまた変えると、そこには真っ暗な空。一気に気持ちが沈んでいくのが分かった。




「早く終わらして帰らないと、お母さんに怒られる!」
「連絡したらいいだろ」
「今日携帯忘れたの!」
「ドジ」
「うるさい!そう言う狩屋くんはいいの?」
「……あー、俺は平気」
「どうして?」




きっと家ではお母さんが晩ご飯を用意して待ってる。もうそんな時間だ。なのに何で狩屋くんは帰らなくても平気なんだろう。狩屋くんがホッチキスを動かす手をとめた。




「俺、お日さま園だから。遅くなったりとか平気」
「……」
「親いないって、こういうとこ便利なんだよな」




胸の奥が痛くなった。あれ、私なんで狩屋くんにこんなこと言わせてるんだろう。疑問に思ってどうして?なんて聞いたことが、狩屋くんを苦しめてしまっている。狩屋くんは笑ってるけど、その笑顔は今にでも崩れてしまいそうだった。私、なにやってるんだろう。
きっと無意識。無意識だったと思う。狩屋くんの悲しい顔が見たくなかっただけかもしれないけど、いつもの狩屋くんに戻ってほしかっただけなのかもしれないけど、何かを思うよりも先に体が動いた。狩屋くんのキレイな水色のような髪の毛が、私の両手の中に収まった。




「は!?神崎!?」
「私は、狩屋くんの親の代わりなんてなれないけど、」
「……」
「でも、それでも、一緒にいることくらいは出来るから、」
「…神崎、」
「私に出来ることなら何でもするから、だから」
「……」
「そんなに悲しそうに笑わないで」




何で神崎が泣いてるんだよ。その言葉で私泣いてるんだと気付く。しだいに狩屋くんの肩も少し震えている気がした。




「ありがとう」




掠れた声が頭に響く。私の胸に顔を埋める狩屋くん。ありがとうだなんて、私そんなお礼言われるようなことしてないのに。そう感じつつも、そのありがとうは今まで言われたどんな言葉よりも嬉しかった。




あの絵本の結末を覚えているかい







20120211