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しまった、そう心の中でつぶやいた。先生が教科書の何ページ開けと、黒板に白のチョークでまるで暗号のような文字を書き並べる。数学の教科書忘れちゃった、とどうしようかと周りをキョロキョロ見回す。普通忘れたら、隣の席の人に見してもらうんだけど。右を見れば全然話したことがない大人しい男の子。今度は左を見れば、怠そうに頬杖をついている狩屋くん。狩屋くんとは気軽に話せる仲だし、やっぱり後者だな。と思い文句言われるの覚悟でお願いした。




「ねぇ、狩屋くん」
「なに?」
「…教科書忘れちゃったの、」
「ふーん」
「だから見してほしいんだけど…」




お願い、そういえば狩屋くんは少し嫌そうな顔をしつつも、「しゃーなしだからな」と言ってくれた。ありがとう、とお礼を一言いい、狩屋くんの机に自分の机をくっつけた。




「……狩屋くん、」
「何だよ」
「…落書きしすぎ」




教科書の空白のところは、お世辞にも上手いとは言えないような落書きで埋め尽くされていた。何だこれ、全部へにゃへにゃじゃん。




「暇なんだよ」
「しかも…、うん…」
「しかも何だよ」
「いや、何でもないよ」
「言えよ!気になるだろ!」
「あーそのー、独特な絵のセンスですね…」
「どういう意味だよそれ!」




正直何を描いているのかさえ分からない。これなに?宇宙人?狩屋くん絵描くの苦手なんだなぁ。「けっこう器用そうな手なのに」「失礼な奴だなお前は」もう見してやんねぇ、と私と狩屋くんの間にあった教科書を取り上げた。




「人間誰にだって苦手なことはあるから、気にしないで!」
「フォローになってないんですけど」
「絵が下手くそでも、生きていけるよ!」
「はっきり下手って言ったよな今」




狩屋くん怒らしちゃった。と思い、ごめんと謝れば「許さねぇ」とそっぽを向く。まぁ、狩屋くんのことだからこんなこと言うとは分かりきったことだったけど。「ごめんって、狩屋くん」「神崎のバーカ」小学生か。




「ほら、飴ちゃんあげるから」
「……」
「この飴すっごく美味しいんだよ!」
「……何味?」
「いちご味!」




何味か聞いてきた狩屋くんにそう答えると、黙ったままスッと手を差し出してきた。ちなみに目線は合わせてくれていない。




「はい、」
「……ん、」
「授業終わったあとにでも食べてみてよ」
「言っとくけど、別に飴につられたんじゃねーからな!」
「はいはい」




それって自分から飴につられたって言ってるようなもんじゃん、と内心思いながらも適当に返事しといた。いい加減真面目に授業受けようと思い、集中しようと黒板を見ながらも、狩屋くんの機嫌直すために今度から飴を常備しておこう。なんて考えていた。




ひっくり返ったレインボー







20120203