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お見舞いにやってきたのはいいものの、どうしようか迷っていた。痛い沈黙の中、狩屋くんが口を開く。「で、何できたんだよ」そのセリフではっと気付き、目的であるプリントを肩に下げてる鞄から取った。




「プリント届けにきました…」
「何でお前が…」
「日直なの、今日」
「だからって、天馬くんとかに頼めばよかったのに…」
「天馬くんは部活あるでしょ?」
「神崎もだろ、」
「マネージャーだし、葵ちゃん達もいるから今日くらいはと思って…、」
「………はぁ、」




がっくりと肩を落として落胆する狩屋くん。髪はいつもより跳ねてるし、服装は楽そうな部屋着だし、何だか普段じゃ見れない狩屋くんだな。ちょっと得した気分かも。




「用事済んだんだから帰れよ」
「あ、うん…そうだね。……あっ!」
「何だよ」
「来る途中にミカン買ってきたの!はい、」




何個か入っているミカンを狩屋くんに渡すと「さんきゅ、」とぶっきらぼうに言う。風邪で弱ってるのか、いつもより素直な気がする。




「渡すものこれだけ?」
「うん、そうだよ」
「じゃあとっとと帰れよ」
「………」
「…神崎?」
「…そんなに帰ってほしいの?」
「はぁ?」




さっきから帰れとばっかり言ってくる狩屋くんに尋ねた。風邪しんどいんだろうし、私がいたら邪魔なのは分かるんだけど、やっぱりそればっか言われたら悲しいなぁ。再び気まずくなった空気に、さすがに困っちゃうこと言ったなと思った。「あ、気にしないで!じゃ、帰るね!」そう言って部屋をあとにしようとすると、狩屋くんが「そんなんじゃねぇよ」と小さな声で言う。




「俺といたら、風邪うつるかもしんねぇだろ!」
「……え、」
「だから別に神崎が嫌だからじゃないっつーの!」




狩屋くんは顔を赤くしてそう言った。風邪って人格も変えてしまうんだ。だって普段優しさの欠片もなかった狩屋くんが、こんな気遣いするなんて…。あれ、でも前傘に入れてくれたか。あの雨の日のことを思い出しつつも風邪の凄さに感動していると、狩屋くんが「ま、帰りたかったら帰ればいいけど」と余計な一言を付け足す。なんだ、やっぱり狩屋くんだ。




「私は風邪うつらないから大丈夫!」
「…何で言い切れるんだよ」
「狩屋くんいつも私にバカって言うくせに…」
「は?」
「バカは風邪ひかないって言うでしょ?」
「…お前それ自分で認めてるのかよ」




そう言い笑い出した狩屋くん。早くこの笑い声を学校で聞きたいなぁ。そう思ってしまった私は狩屋くんのことなんだかんだで嫌いじゃないんだろう。今日隣の席に狩屋くんがいなかったとき、私は確かに寂しいと思った。それはきっと毎日言い合いしてる相手がいなかったからだよね、とりあえず今はそう思うことにしておいた。




小さな小さな花弁を贈る







20120129