愛情なんて、お日さま園にあずけられた俺にとっちゃあってないようなものだった。だるそうに会社で働いているサラリーマンだって、空を飛んでいる鳥だって、みんな帰る場所があるんだ。昔から自分のそばにあるものといえば、サッカーだけだ。自分がかわいそうだとは
思わない。思いたくないから。暗くなってきた空の中、すべり台の上でため息をついた。そろそろ帰ろうかとおもい、すべり台を滑ろうとすると、俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「マサキー!」
「名前?」
滑ろうとしていた動作をやめて、騒がしい声で呼んできた名前を見る。白い息をはきながら走って俺のところへ来ようとしていた。すべり台の階段を上がり、俺の真横に来たこいつはこの寒い冬にも負けないくらい明るい笑顔で「帰ってこないから、心配になって迎えに来ちゃった!」と俺に言った。
「迎えに来たって…、俺は一体何歳だよ」
「半年前までは小学生だったでしょ?まだまだ子供だよ」
「お前もな」
俺のセリフを無視しながら、手袋をした手を両手でさすりながら「寒いねー」とつぶやいた。寒いなら来なきゃよかったのに、と思いながらも名前が来てくれたことにどこか嬉しいと思う自分も存在した。名前も俺と同じお日さま園にいる。サッカーほどではないけど、昔から俺のそばにいてるような気がしなくもない。
「サッカーしてたの?」
「うん」
「サッカー大好きだもんね、マサキは」
「昔からあるものは、サッカーしかないから」
「………」
遠い空を見上げながら言った俺の言葉は白い息とともに消えてしまった。そのとき、名前が手袋もしていない俺の手を寒さから守るように掴んだ。
「そろそろ帰ろっか!」
寒さで鼻を赤くした名前は優しい笑顔でそう言った。名前の後を追いかけるようにすべり台を滑り、お日さま園へと帰ろうとしたら、名前が手袋を片っぽ差し出してきた。「はい、片方あげる!」いや、片方だけじゃあんまり意味ないんじゃないかと伝えると、「こうすればいいんだよ」と自信満々にそう言い、お互い手袋してない方の手を繋いだ。
「よし、帰ろう!家に!」
「……名前、」
「ん?」
「……ありがとう」
その言葉と同時に、名前の手を強く握れば、答えるように俺の手を強く握りかえしてくれた。
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狩屋くんはきっと優しい子
20120103