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「やっぱ気にしてるんだね、小さいこと」




  牛乳を飲んでいる俺の横でそう言ってきたこいつを本気で殴りたいと思った。こいつはデリカシーという言葉を知らないんだなと考えて、教えてあげようとしたけど遠慮された。ここで遠慮するんだったら俺が傷付く言葉を言うのを遠慮しろよ。ため息をつけば何を勘違いしたのか、倉間は小さいから倉間なんだよ、と訳の分からないことを言われた。俺はお前に対してため息ついたのであって、小さいことにはため息ついてねーよ。つーかそれ失礼だし。




「苗字ってほんとありえねー」
「なに、もしかして傷付いた?」
「気付けよ」




  あっちゃーそれはごめんねー。と感情のこもってない棒読みで言われてもまったく心は癒されない。こいつには感情ねぇのかと思ったけど、こいつは元からそんな奴だということに気付き文句をこぼすのはやめた。言っても無駄だから。




「でもやっぱ、身長高くなりたいとは思うんでしょ?」
「それ聞いちゃうんだな」
「あれ、まずかった?」
「……別に。そりゃあ思うに決まってんだろ」
「ふぅん…」




  なんだかすごい惨めじゃないか、俺。そういうもんかーと納得している苗字は俺よりも少し背が高い。並ぶときに現れるちょっとの視線の差がいつも憎たらしかった。やっぱこいつも背が高い奴の方がいいんだろうなとか考えてる俺は女かよ。




「いいじゃん!小さいのも!」
「気遣うなよな」
「そんなんじゃないって。小さい方が可愛いよ」
「ぜんっぜん嬉しくねぇ」
「難しいなぁ倉間は」




  俺に言わせればお前の方が何倍も難しい。なんかこう…、人と思考が違うっていうか。一言でいえばそう、変わってる。こいつにはマイペースという言葉がぴったり当てはまる。それにむしろ俺はどっちかていうと単純な方だ。苗字より背を高くしたいから牛乳もこうやって毎日欠かさず飲んでる。なんて言ったらこいつはどんな反応をするんだろうか。そうなんだー、とか淡白なリアクションしか返ってこない気がするから言わないけど。




「背伸びた倉間かぁ。想像出来ないなー」
「想像じゃなくて現実になる日が来るんだよ」
「楽しみにしとく」




  信じてねぇな。と目を細めて睨んでやっても、苗字は陽気に鼻歌まじりにオレンジジュースを飲んでるもんだから一人で怒ってる自分がバカらしく思えてきた。




「まぁでも低いより高い方がいいかもだけどね。男だし」
「ほら、苗字もやっぱそう思うんだろ」
「え、私?」
「…っ、え」




  しまった。地雷を踏んでしまった。前に南沢さんが勝手に話しだした好きな子をおとす方法に、自分の好意をさり気なく伝えるなんてのがあったけどそんな記憶消えちまえ。脳裏に浮かんでいた南沢さんをかき消した。ぱちぱちと瞬きをしながら見てくる苗字の視線が凄く痛い。




「あーなるほど!」
「…なんだよ」
「倉間、私のこと好きなんでしょ!」
「っはぁ!?」




  余りにも直球すぎるそれに随分と間抜けな声が出た。よくこんな恥ずかしいことをサラッと言えるな…、と関心している場合ではない。




「そっ、そそそそそんなわけ」
「もー、照れるなって」
「照れてないっ!」




  そうは言ってみても今の俺すっげぇ顔赤いだろうから説得力ないだろうな。私の身長抜かしたら付き合ってあげてもいいよ、なんて言う苗字に恐怖を覚えながらも、明日から飲み物は全部牛乳にしようと決心した俺はやっぱりこいつには勝てない。









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倉間くん可愛い


20120306


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