「ずるいよ、円堂くんは」
そう言うと円堂くんは少し目を細める。「苗字、ごめんな」「謝らないでよ」悲しそうな円堂くんとは対照的に、私は笑ってみせた。あぁ、円堂くんにこんな顔させたのは、他の誰でもない私なんだ。
「昔っから、ずっと円堂くんはそうだった」
「……」
「困ってる人をほっとけなくて、いつでも前向きで一生懸命で、」
「……」
「優しすぎるんだよ、円堂くんは」
まぁ、その優しさに好きになったんだけど。そう付け足すと、再び円堂くんはわたしの名前を呼ぶ。「夏未ちゃんも、きっとそうなんだろうなぁ」私と同じように、夏未ちゃんも円堂くんのそんなところに好きになったんだろう。ただ私と違うのは、円堂くんも夏未ちゃんを好きになったとこだけだ。うん、そこだけなんだ。
「それだけなのに、こんなに違うんだね」
「え?」
「ううん、何でもない」
「夏未ちゃんとお幸せに」そう言うと、円堂くんは困ったように笑う。私に言われることに、罪悪感でも感じてるんだろうな。円堂くんの顔を見ながらそんなことを考えてると、円堂くんが口を開く。「あのさ、」
「苗字の気持ちには答えられないけど、それでも」
「……」
「苗字はずっと俺の仲間だぜ!」
昔と変わらない太陽みたいな笑顔でそう言う円堂くん。その言葉、すごく残酷だよ。そのセリフは心の奥底にしまった。
「…ありがとう、」
「ああ、じゃあそろそろ…」
「うん、バイバイ」
「また会おうな!」
円堂くんは私に背中を向けて歩き出した。きっと彼は、夏未ちゃんのとこに帰るんだろうな。瞬きをすると、一筋の涙が流れてきた。これで、私の長年に渡る片想いも終わったんだ。
さよなら、私の愛した人。
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夏未ちゃんとお幸せに!
20120131