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  好きな子をいじめる。何でそんな分かりやすい行動をするんだ。そんなことしたら、相手に好きですって言ってるようなもんだろ。なんてずっと思っていたし、今でも思ってる。それでもその気持ちが分からなくない俺は、きっと一般的な中学生男子なんだろう。いや、きっとじゃなくてもそうなんだけど。




「もう!狩屋くん!」




  今日も俺は苗字をいじめる。同じクラスでサッカー部のマネージャーでもある苗字とは、必然的に一緒にいる時間が長かった。そのため、まぁよく話す。人と関わるのが苦手な俺にも、苗字は優しく話しかけてくれた。あんまり大きい声では言えないが、最初はただのおせっかいな奴って思っていた。が、気がついたら俺は苗字に惹かれていっていた。




「おい狩屋、あんまり苗字をいじめるなよ」
「霧野先輩優しいですねー。もしかして苗字のこと好きなんですか?」
「狩屋くん!」




  自分でも歪んだ性格をしてると思う。みんなを、苗字を困らせて何になるんだ。しかし素直に気持ちを伝えれない俺には、こんなことで苗字の気を引くしか出来なかった。





  キツい練習が終わり、少し暗くなった道を歩く。早く帰ってご飯食べて風呂入って寝よう。そんなことを考えながら一歩一歩足を進ませると、「わっ!」と驚かすように背中をおされた。この声、俺が好きな声だ、そう思った俺はだいぶ苗字のことが好きなのだろう。振り向くと、ほら。苗字だ。




「驚いた?」
「…何してんの?わざわざいじめられにでもきたの?」
「違うよー。えっとね、」




  ゴソゴソと鞄をあさりだした。何だ一体、なんて思っても、やっぱり話しかけてきたことは嬉しかった。「はい、これ!」そう言われて渡されたのは、「…湿布?」目の前にある物の名前を言うと、苗字は満足そうに笑う。




「今日天城先輩にスライディングされたとき、左足痛めたでしょ?」
「え、何で知って…」
「おかしいなーとは思ったんだけど、」
「……」
「今狩屋くん見つけたとき左足かばいながら歩いてたから確信したの!」
「……」




  相変わらずおせっかいだ。おせっかいだけど、優しいんだ。ぼーっとしてる俺を不思議に思ったのか、「狩屋くん?」と俺の名前を呼んだ。はっとして慌てて返事をしたけど、やっぱりいつもの通りいじわるな台詞しか出てこない。




「わざわざ練習終わった後にこんなことするなんて、苗字って俺のこと好きなんだろ」
「え、」
「…なんつって。湿布はもらってくよ。じゃあな、」




  ありがとうの一言を言えない俺を苗字が好きになるわけない。そう自分に言い聞かせて後ろを振り向きたいのを我慢しながら再び歩き始める。左足の痛みより、心の方が痛い。はぁ、と小さいため息をしたら、制服の袖を誰かに掴まれた。誰かっていっても、一人しか思い当たらないんだけど。




「か、りやくん…」
「…苗字?」
「あのね、私ね、」
「……」
「狩屋くんが好きなの!」




  いっつもいじめられて怒ってるけど、狩屋くんと話せるから嬉しかった!最初の頃話しかけてたのも、狩屋くんと少しでも近くなりたかったから!今も狩屋くんが言ったように、わざわざ渡しにきたのも全部狩屋くんが好きだから!
  そう言葉を息継ぎもせずノンストップで言い放ったあと、じゃあね!ばいばい!と凄い勢いで猛ダッシュしていった。俺はというと、ただ去っていく苗字の背中を見るだけだ。え、ちょっと待てって。苗字が俺のこと好き?え、え?赤く染まっていく顔と同時に、心の中でそりゃあもう喜んだ。ニヤける口をおさえながら、明日苗字に何て言おうかと考えながら湿布を強く握りしめた。









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狩屋くんは好きな子には態度違いそう=分かりやすい


20120122

 


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