お、重い。ヨロヨロとした足どりで廊下を一歩一歩進む。手の中には大量のプリント。たまたま出くわした先生に運んでくれって頼まれたのが始まり。私は昔から頼まれると断れない性格だ。はい、の一択しかなかった。で、現在の状況に至る。
「まさかこんなにプリントが多いなんて…」
文句をこぼし右へ曲がろうと方向を変えた瞬間。「わっ!」いきなり現れた人の影によけることが出来ず、衝突して尻もちをついた。いたた…と自然に声がもれた。反射で閉じていた目を開けると、持っていたプリントが床一面に広がった光景。それと剣城くん。
「わっ、ごめん剣城くん!」
「……」
「ケガしてない?ごめんね!」
「…大丈夫だ、」
やってしまった、と心の中で思った。実のところ、私は剣城くんが苦手だったりする。いや、苦手っていうよりも怖いの方が正しい。まぁ話したことも全然ないし、外見の問題でそう感じるんだけど。とりあえず落ちたプリントを拾おうとかき集めていると、立ち上がった剣城くんがじーっと見てくる。
「…苗字一人で運んでたのか?」
「え?う、うん、そうだよ?」
「………」
「……?」
何でそんなことを聞いてくるんだろう、と思いながら再びプリントを拾い集める。一つの束にしたあと、もう落ちてないことを確認し、教室へ運ぼうとした時だった。ぱっと重いプリントを剣城くんが私から取った。
「教室に運ぶんだろ?」
「え、う、うん…。あの、剣城くん…?」
「俺が運ぶ」
それだけ言って後ろを振り向いて剣城くんは歩き出した。その後ろ姿に、あ、ありがとう…、と言った。小さな声だったけど、きっと剣城くんには聞こえただろう。だってこっちをみて少し微笑んだから。剣城くんは怖い人と思っていたさっきまでの自分に怒りたい。剣城くんは優しいんだよ、って。ドキドキドキドキ。なんだか心臓がうるさい。赤くなる顔をおさえながら、私はただただ遠くなっていく剣城くんの背中を見つめた。
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この感情はきっと、
20120115