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「あ、狩屋くん」




  見つけた人物の名前を呼ぶと、走っていた足を止めて私の顔を見るなり、乱れた息のまま、あっ、と声をもらした。ジャージ姿に大きいカバンを持ってるとこを見ると、おそらく部活へ行く途中なんだろう。全速力で走っていたのか、肩が息をするのと合わせるように動いている。「…苗字、ここで、何してんの…?」という狩屋くんの問いに、おつかいと答えて自転車のかごに入っているスーパーの袋を見せた。





「狩屋くんは部活?」
「う、うん…。で、でも、遅れそうで…」
「え!ご、ごめん!引き止めちゃって!」
「い、や…。だいじょう、ぶ…」




  呼吸を整えようとしてるのか、前鏡になりながらぜぇぜぇ言っている。どうしよう。これで部活遅れたら私のせいだ!と今度は私が焦っていると、倒れないように支えている自分の自転車が目に入った。




「あ、狩屋くん!」
「な、何?」
「学校まで自転車で送るよ!引き止めた私も悪いし…」
「え…、いいの?」
「うん!だから後ろ乗って!」




  自転車に乗ったあと、合図するかのように自転車の後ろの部分をぽんぽんと叩いたら、狩屋くんはまん丸な目をしてきょとんとした顔をした。あれ、急がなくていいのかな?と思い、狩屋くん?と名前を呼んだ。




「苗字、」
「どうしたの?」
「降りろよ」
「え?」
「いいから」




  訳が分からないまま言われた通りに自転車から降りる。すると、狩屋くんが私から自転車を奪って乗った。どういうことだと驚きを隠せなくて、無言で狩屋くんを見つめていると、何してんの、と狩屋くんの声がふってきた。




「早く後ろ乗れって」
「え、ええ?何で狩屋くんが前に…」
「…あのなぁ、苗字に漕がせるわけにいかないだろ」





  ほら、早く。と急かしてくる狩屋くん。恥ずかしい気持ちを抑えながら、後ろに乗った。ど、どこ持てばいいんだろう…。背中を見つめながら考えてると、つかまって、と狩屋くんが私の手を掴み、お腹へ回した。う、うわぁ…!一気に顔に熱を感じた。




「じゃあ、行くぞ」
「うっ、うん!」





  勢いよくペダルを漕ぎだした狩屋くんに重くてごめんなさい、と心の中で謝った。ちらっと狩屋くんを見る。あれ……。髪の毛からちょっとだけ見える耳が、真っ赤だった。不覚にも可愛いと思ってしまい、さっきよりも掴んでいた手に力が入った。









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狩屋くんと2人乗りしたい


20120115



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テーマ「人外ファンタジー」
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