俺にもいつかあの人を越えられる日が来るのだろうか。俺がゴールを守っているとき、みんなが安心してまかせられるキーパーになれるだろうか。ゴールポストにもたれかかり、オレンジ色の夕焼けを見上げた。オレンジ色のそれは、何だか円堂さんに似てる気がした。手を伸ばしても、届かない存在。はぁ、と誰にも聞こえるはずのないため息をし、顔をうつむけば持っていたサッカーボールに雫が落ちた。
「立向居くん?」
いきなり聞こえた人の声に顔を上げれば、夕日で眩しいのか目を少し細めている苗字先輩がいた。苗字先輩、と言えば、俺の目に涙がたまっていることに気付いたのか、苗字先輩はちょっとだけ焦った顔をした。
「…た、立向居くん、泣いてるの…?」
「………」
「だ、大丈夫?」
「…大丈夫、です。」
弱々しくそう言ってしまったせいか、苗字先輩は眉を下げた。再び俺が俯けば、ゆっくりと苗字先輩が近づいてきて、俺の隣にそっと座った。
「練習してたの?頑張り屋さんだね、立向居くんは」
「…そんなこと、ないです。それに…」
「それに?」
「…俺がいくら努力したって、円堂さんにはかなわないんです」
苗字先輩に何を言ってるんだろう。こんなこと言っても、困らせるだけなのに。きっと苗字先輩も、弱気な俺に嫌気がさしているだろう。おそるおそる苗字先輩を見れば、優しく微笑みかけてくれた。
「…でも立向居くんは、その円堂くんに認められた」
「…え?」
「円堂くんだけじゃなくて、イナズマジャパンのみんなからも!」
もちろん私も凄いって思ってるしね!そう言って笑った苗字先輩が光って見えたのは夕日のせいなのか解らなかった。
「今は円堂くんの背中を見てるかもしれないけど、いつかきっとくるよ、」
「……」
「立向居くんが円堂くんを追い越す日が!」
止まりかけていた涙が、また流れて頬をつたってきた。じゃあ戻ろっか、と言って苗字先輩が差し出した手を掴んだ。
「…苗字先輩、」
「ん?」
「……」
「……?」
「…やっぱり、何でもないです!」
「?」
ずっと俺のそばで俺のことを応援して下さい。
その言葉は、俺が円堂さんを越えれたときに伝えます。絶対に。
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立向居は絶対いろんな
葛藤があったと思う。
20120108