小説 | ナノ








髪を切った。と言っても数センチだけど。そして今から私は恋人である晴矢と遊ぶのだ。気付いてくれるかなとドキドキというよりワクワクして晴矢の家へ向かう。もう晴矢とは長い付き合いになるし、きっと気付いてくれるだろう。いやきっとじゃなくて絶対だ。気付かなかった時にはあの晴矢自慢(かは知らないけれど)のチューリップヘアをちょん切ってやる。ピンポーンとインターホンを鳴らすとすぐに晴矢が出てきた。おー上がれよとだけ言ってすぐに私に背中を向ける。ま、まぁ今のは一瞬だけしか私のこと見てなかったしね、うん。これからこれからと自分に言い聞かせて晴矢の家に上がった。




「ゲームしようぜ。どうしてもこの敵倒せなくてよ、名前も手伝ってくれよ」
「あっ、うん。いいよ!」




慣れた手つきでコントローラを操作する晴矢を横目で見る。私よりもゲームに夢中?と少しイラつくが、そんな私の思いは画面ばっかり見ている晴矢に届くことはない。「ねぇ晴矢、私見て何か思うことない?」「ちょっ、今目離せない」「いいからこっち向いて!」強引に両手で晴矢の頭ごと私の方へ向ける。途端に晴矢は悲鳴をあげる。手元が狂って敵に殺されたのと、首が痛いののダブルで悲鳴をあげたのだ。しかし今の私はそんなことお構いなしで、ほらほらと晴矢にアピールするのだった。「ね?何か違うでしょ?」半ば呆れた表情で、ジト目で凝視してくる。見ればすぐに分かるだろうと思っていたから、そんなに見なきゃ分からないの?と内心不満でいっぱいだった。すると、はは〜んと得意気な顔をしてきた。あっ、気付いたんだ!




「確かにちょっと太ったなぁ!よーく見たらすぐ分かったぜ」
「……」
「名前は昔からよく食べる当然……ぎゃあああああ!」




再度響き渡る悲鳴。今度は私が目つぶしをしたからだ。お前、それは反則だろ…と弱々しい声でそういう晴矢に私は言い返す。「あのねぇ!どこの世界に太ったことをアピールする女の子がいるの!」そう言えば不服そうな顔をされた。こいつは女の敵だ。ほら、他にも何か気付くでしょ?と頭を挿せば、こんな大ヒントを出しているにも関わらず分かんねぇよと漏らす。




「爪切ったとか?」
「そんなの気付かれても嬉しくないっつーの」
「はぁー、本気で分かんねぇ」
「もー!それでも彼氏なの?!大体晴矢はねぇ!」




日頃の不満を超えに出して言うと、げっそりとした表情。ったくこの男は。女心っていうものが何にも分かってないんだから。「で、正解は?」当てる気も無くなったのか、そんなことを言い出す。最後に一言文句を言ったあと、一つ咳払い。




「正解はね、じゃじゃん!髪を切りましたー!」
「はぁ?」
「え?」
「んだよ!そんな事かよ!」




やってらんねぇと床に寝そべる晴矢に再び怒る。そんな事って…、女の子にとったら大事なことなのに!本当に頭のチューリップを切ってやろうかと睨みつければ「髪切ったことくらい玄関で見てすぐ分かったっつーの!」え?私は目を丸くする。わざわざ言うことじゃないと思ったという晴矢に私は呆れた声。また訳も分からないことを…という呆れた気持ちと、最初に気付いてくれたんだという嬉しさがごちゃまぜになる。「ったく…。あー目がいてぇ。」「あー…。うん、それはごめんやり過ぎた。」謝れば、アイスおごりなと急に偉そうになったので寝そべっているお腹を軽く蹴ってやった。




「そもそも最初に言っとけば、こんなことにならなかったし。」
「はいはい、すみませんね」




体を起こした晴矢が私の方へ近づいてくる。えっ何と聞いてみても無言。無表情だし一体何なんだと怪しむ目でジッと見ていると、耳元でそっと囁かれた。その言葉を聞いたあと、だんだん顔に熱が集まってくるのが分かった。真横には少し照れた晴矢の顔があった。




「似合ってる」




-------------
20140208





「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -