小説 | ナノ











  私にはお兄ちゃんがいる。整った顔立ちをして運動も出来て、頭もまあまあな自慢のお兄ちゃん。私を可愛がってくれて性格も優しくて、欠点なんて見当たらない。ただ一つ物申すことがあるとすれば、それは優しすぎることかもしれない。優しすぎるというより、重い。兄弟の関係で重いって言葉はおかしいのかもしれないけど、お兄ちゃんは私のことを気遣いすぎている。具体的に言ってみると、私が小学生のとき、同じクラスだった男の子にちょっと意地悪をされて泣いて家に帰ったときがあった。お兄ちゃんが顔を真っ青にして私に事情を聞いてきたので、しぶしぶと答えればお兄ちゃんは私を慰めた。俺に任せろ、なんて言って新幹線ごとくのスピードで家を飛び出してった。そしてそれは次の日のことだ。昨日私に意地悪してきた男の子はすごい顔色を悪くして、私に本気で謝ってきた。確か目は涙目だった気がする。土下座するような勢いで謝ってきたので、私は普通に許した。その男の子を脅したのがお兄ちゃんだって知ったのはそれから三日後。お兄ちゃん本人の口から告げられた。ちなみにこと話しはお兄ちゃん伝説の中の一つに入っている。
  そんな感じで、自分で言うのもあれだけどお兄ちゃんは私をとにかく可愛がっている。重いくらいに。一時期シスコン?と疑ったことがあるけど、怒るときは怒るし、ベタベタしてくるわけでもないから違うと思う。自慢のお兄ちゃんってことは変わりがないけど、いきすぎた部分に鬱陶しいと感じることはけっこうあったりするのだ。




「お兄ちゃんもう起きる時間だよ!朝練遅れても知らないよ。」




  朝が苦手なお兄ちゃんを起こすのは私の役目。別に私はサッカー部のマネージャーではない。でも私は自分のお弁当は自分で作ると決めている。なので、ついでってことでお兄ちゃんの分も作っている。といっても豪華なお弁当なんかじゃ全然ないんだけどね。
  眠たい目を擦りながら起きてくるお兄ちゃん。いい加減早起きにも慣れろよ、それが妹の本音でもある。習慣のとおりに支度をしたお兄ちゃんに出来上がったお弁当を渡す。お礼を言って学校に向かって行く姿を見送ったあと、私もゆっくりと支度を始める。超特急で支度をするお兄ちゃんと比べると、私はとてもスローペースだと思う。のそのそと準備をしたあと、同じくのそのそと学校へ登校するのだ。



















「あ、おはようマサキ」
「おはよ」




  朝練が終わって決まった時間に教室に入ってくるマサキに挨拶をする。朝に運動して今度は勉強なんて大変だなぁ、と思うけど元気に騒ぐ天馬くん達を見てたらサッカーが好きだから関係ないのかと思えてくる。




「そういえば、最近お兄ちゃんが狩屋が遅刻多いって怒ってたよ」
「げっ、まじかよ」
「まぁそのお兄ちゃんを朝起こすの一苦労なんだけどね」
「妹も大変だな」




  もう分かっているかもしれないけど、私とマサキは付き合っている。サッカー部では天馬くん達一年生の部員は知ってるんだけど、他はしらない。さらに天馬くん達にも、言わないでと口止めをしている。理由は一つ。お兄ちゃんだ。お兄ちゃんの耳に知れ渡ったら、マサキがどんな目に合うかは火を見るより明らかなので、そこまでバカじゃない私は隠しているのだ。時々隠すのがめんどくさくなって、言ってしまおうかなんて思うが、マサキのことを考えると何とか我慢しなければと思う。









  時間も過ぎてお昼ごはんの時間。屋上で食べようとマサキに誘われた私は快く承諾する。コンクリートに腰掛け、今朝作ったお弁当を広げると、まじまじとマサキが覗き込んできた。




「なに?」
「名前って霧野先輩にも作ってんだよな」
「うん、そうだよ」
「じゃあ一つ作るお弁当が増えても変わらねぇ?」
「うーん、そうかもね…」




  で、それが何?と問いてみたら顎に手を置いて考える素振りを見せるマサキ。




「明日俺の分も作ってきてよ」
「ええ!?」
「霧野先輩は食べれて俺が食べられないのって悔しいし」
「…いいけど、美味しくないと思うよ?」
「それでもいいって」
「…じゃあ、分かった。作ってくるね…」




  隣で喜ぶマサキを見ながらも、私の頭はどんなお弁当にしようかでいっぱいである。張り切りすぎたらお兄ちゃんにどうしたって疑問を持たれそうなのでやっぱりいつもと同じようなのにしよう。マサキが喜んでくれるために頑張るぞ、と私は手でグーを作って気合いを入れる。












「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -