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まずボクはけじめとして、月ちゃんとお揃いにしていた髪をばっさりと切った。頑張って伸ばして手入れもしていた髪だから行きつけの病院のお姉さんも本当にいいの?と訝しげな視線をよこしてきた。でもね、月ちゃんから離れるなら似てるところを少しでも減らしたい。

ロングヘアーからショートヘアーになった髪と存在を主張しまくる医療用眼帯。これなら月ちゃんの隣に並んでもきっと双子だとは分からない。そもそもあんまり似てない双子だったし、意識して見た目を変えれば簡単に変わる。


髪を切ってすっきりした後は約束をしていた人の元へ。母さんが約束を破るとは思わないけど、念のため、ね。


隠れ家的カフェは向こうが指定してきた場所。からん、と開閉するとベルが鳴る扉を開けると目当ての人がこちらをみて笑っていた。その目当ての人っていうのはボクと月ちゃんの父親にあたる人なんだけどね。


「元気そうで何よりだよ陽。髪を切ったのかい?短いのも似合ってるね。流石俺の娘だ」
「久しぶりだね父さん。元気にしてたの?雑誌とかで何をやってるかは分かるけど、連絡が来ないから月ちゃんが心配してたよ」
「あははっ、すまないね。陽は、心配してくれなかったのかい?」
「するわけない。ボクが心配するのは月ちゃんだけだよ。それは父さんが家を出る前からずっと変わらないもの」


父さんが注文してくれたオレンジジュースの氷をからりと鳴らす。相変わらずこの人も母さんと一緒で読めない人だ。流石ボクらの父であるとしか言いようがないんだけどね。

「時間もないと思うし、早速本題に入らせてもらうね。流れはこの間電話で言った通りなんだけど、父さんの力でそれは可能なの?」
「月を高校卒業まで俺の監視下に置くということだろう。可能だが、それがあいつにバレたとはどうするんだ?バラたら全員ヤバいことになるぞ」
「旦那の言うことは説得力あるよね。別にバレたら全責任はボクが被るよ。それにボクが命令通り好成績を収めてたらあの人は何をやっても知らないふり決め込んでくれると思うし。…ま、もしミスっちゃったら重箱の隅をつつくようにねちっこく言われるんだろうけどさ」
「頭に元、が付くけどね。あいつとは20年以上の付き合いだ、それなりに性格は把握してるさ。だから言うよ、その作戦は月を自由にするためにお前の人生を捨てる。あいつはね、やると言ったらやる奴なんだよ。手駒はなんでも使う、実の娘であろうが容赦はしないよ。それでも、お前はやるのか?」
「なにそれ、そんなの覚悟の上でやってんだけど。ボクはね、月ちゃんが大好き。月ちゃんが笑ってくれたらもうそれで幸せなの。もしも、ボクのこの行動で月ちゃんが幸せになれるとしたらそれほど幸福なことはないよ!」


1に月ちゃん、2も月ちゃん、3、4月ちゃんで5はバスケ。これくらい月ちゃんの存在っていうのはボクの中で大きいの。

こくり、とオレンジジュースを飲む。父さんはあり得ないものを見るような目でボクを見るけど、もう取り返しのつかないことにはなってるんだよ。

「…ボクはもうダメだからさぁ、月ちゃんだけでも幸せになってもらいたいじゃん。少しでもボクのこの行動が月ちゃんの幸せに繋がってるって思うだけで、ボクはこれから先ずっと生きていけるよ」
「はぁ、似た者姉妹だなお前らは。分かった、月のことは任せなさい。お前には負担ばかりかけるが、月は絶対に手は出せないようにしておくよ」
「うん、ありがとう」
「それと、離婚した今親権はあいつにあるけど…、月も陽も可愛い俺の娘なんだから何かあったら頼りなさい。やりたいことくらいやらせてあげるくらいの財力は持ってるつもりだしね」
「…もしもの時は、月ちゃんを父さんの方の戸籍に入れてあげてよ。ボクはずっと母さんと暮らすからさ」

それだけ言ってボクは立ち上がり、ジュース代を置いて外へ出る。ごめんね父さん、ボクはもう、これ以外分からないから。父さんが本当はボクと月ちゃんを自分の元に置きたいのは知ってる。でも、月ちゃんは良くても多分ボクは父さんとは暮らせない。

「…母さんすらほっとけないとか、ボク末期だよなぁ」

あんな扱いをされても、ボクの大事なものを否定されても、ボクを今まで育ててくれたのは母さんだから。何があっても側にいたいと思う。

「でも最優先すべきは月ちゃん」

それだけは変わらない絶対だから。

「絶対に負けないし」

母さんとの賭けも、父さんとの賭けも、全部負けない。

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