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右目がなくなったあの日、ボクは愛しい片割れから離れることを決めた。それは嫌いになったとかじゃなくて、弱虫なボクができた…たった一つだけの勇気。
あの日病室に来た母さんはイライラしていて、多分あのまま帰していたら月ちゃんに被害が行っちゃってた。
だからお願いしたんだ。
「母さん、ボクもうバスケ辞めるよ。どっちにしろこんな目じゃ今まで通りプレイなんて出来ないしさ。だから中学三年間も自由にさせてもらったお礼に、母さんの言ってた進学校に行く。それで無駄なことはせずにずっと勉強する。…だからね、月ちゃんは、月ちゃんだけは自由にしてください」
「…貴女はあの子のせいで三年間無駄な時間を過ごしたのよ?その勉強の遅れは今更頑張ったところで追いつけないわ」
「…っ、そんなこと、やってみなくちゃ分からない!ねぇ、約束して。ボクが希望の高校に入れたらもう月ちゃんを傷つけるのは止めるって、自由にさせてあげるって。それを約束してくれるならボクなんだってする。お願いだよ、母さん」
名前と正反対に活発で太陽みたいに明るい月ちゃん。大事な片割れ。あのね、ボクは月ちゃんの笑顔を見るのが一番好きなの。そんな笑顔を見れるのは、月ちゃんが自由に行動するとき。陽って、呼んで手を引いてくれる…どれだけボクが救われたかなんてきっと分かってない。
守りたいの。弱っちいボクだけど、なんでも捨ててきたボクだけど!月ちゃんの笑顔だけは捨てられないの。
睨みつけるボクを面倒に思ったのか母さんはため息をついて、一言呟いた。
「卒業までのテスト、全教科で一位を取りなさい。一教科でも落としたらあの子は私の望むように矯正します。あと、受験は勿論上位を取りなさい。高校に入ってから三位以下に落ちることは許しません」
「…っ、分かった。絶対やり遂げてみせるから、月ちゃんに手を出さないで」
「約束は守るわ。精々悪足掻きをなさい。…私は今から仕事に戻ります。迷惑をかけて私に恥をかかさないように過ごしなさい」
「はい」
この人はなんで、こんな言い方しか出来ないんだろう。ぱたん、と小さい音を立てて病室から出て行く母さんに疑問しか抱けない。でも良かった、これで月ちゃんは自由だ。
しん、と静まる部屋でぽろぽろ涙を流すボク。いいよね、これで最後にするから。これからずっと頑張るから。
「…っ、ああああぁぁぁぁっ!」
無駄なんかじゃない。バスケがボクにくれたものは、物じゃなくて目には見えないけど凄く大切で。ただ月ちゃんに手を引かれて始めたことなのに、未練なんてないって思ってたのに。バスケができなくなることがこんなに怖い、こんなに悔しい。
止めようと思っても後から後から流れてくる涙は止まらなくて。一人ぼっちの部屋で、ずっとずっと泣き続けた。
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