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霧崎第一は東京の進学校である。東京のたくさんある高校から彼が何故ここを選んだのかボクには分からない。彼レベルならもっと偏差値が高くてバスケも強いとろ行けたんじゃないの、なんて下世話な考えが浮かぶけど声には出さない。だって関係ないから。月ちゃんの元カレってだけでボクの敵だもの。

「七瀬さん、手が空いてるならマネージャー業やってくれないかな?どうしても人手が足りなくて、募集中なんだ」
「今ボクのやってる作業目に焼き付けてから口を開いてくれるかな?天才なキミと違ってボクみたいな凡人はわずかな休みであろうと努力しなくちゃいけないんだよ。あとその猫かぶりキモいからやめてくれる?」
「やだなー。勉強くらい俺が教えるからさ、ね、お願い」

キモい。

月ちゃんの元カレこと花宮真。何があったか知らないけど最後に会った時よりどろりと濁った瞳をしてる。彼が霧崎に入学してしばらく経ってからバスケ部の黒い噂とか流れ出したし、何かやってるんだろうなぁとは思う。天才的に頭いいし、バレないように部活を掌握してるのかな。何やろうがボクには関係ないけれど。

ボクは高校でテストの順位が5位以下に落ちたら月ちゃんに危害を加えるかも知れない恐怖と戦ってるんだ。バスケなんてしてる暇ないでしょ、って何度も言ってるのに(流石に月ちゃん云々は誤魔化してるけど)彼は聞いてくれない。条件さえなかったら別にバスケは嫌いになったわけじゃないから手伝ってやってもいいとは思うけど前提条件がまず無理。っていうかボク花宮嫌いだし。そもそも可愛くない方の後輩に繋がる人間関係築きたくないし。

「キミがにっこり笑えば使える女くらい差が出てくるでしょ。ボクは忙しいから他当たって。次ボクの勉強の邪魔したらそのお綺麗な顔ぐっちゃぐちゃにしてあげるからね」
「……馬鹿女なんていらない。お前じゃないと、俺の理想図は完成しねぇんだよ」
「知らないよ」

多分月ちゃんと別れたことと、庇ってる右腕に彼が変わった原因があることは何となくわかるけど。月ちゃんを泣かせたような薄情者を手伝ってやる優しさはないよ。ボクの世界はぜーんぶ月ちゃんなんだから。

霧崎第一に入学して早半年。しつこいくらいに花宮に付きまとわれて、馬鹿女からの無駄な嫉妬を浴びる生活。左目を覆う眼帯を面白そうに見つめる餓鬼みたいなやつも、無駄な嫉妬をする馬鹿女も、ボクを利用して教師の株を上げようとする馬鹿も全部嫌い。

ボクは月ちゃんだけでいいの。月ちゃん以外いらないの。

この考えが危ういことは知ってるけど、13年間染み付いてきた考えなんだから簡単には治せない。治す気もないけど。

ねぇねぇとしつこい花宮の頬をひっぱたいて口を閉じさせたい気分にはなるけれど、それをしたら面倒だから机を思いっきり叩いて立ち上がる。雑音ばかりの場所で勉強しても頭に入らない。これなら図書館か最悪家にでも帰って勉強する方がマシ。

「明日からはちゃんとボクを無視してね、花宮真。ボクは一人でいいんだから」

どうせ無理なんだろうけど。

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