シルバーはイライラしていた。
なぜなら一緒に出口まで向かうことになった刹那が後ろで「ひゃうっ」やら「あうっ」などと悲鳴をちょこちょことあげているからだ。
土からでた木の根につまづいたり、枝にひっかかったり……とにかく危ない。
ちらりと横目でみてみれば肌に無数の引っかき傷、そして膝に痛々しい擦り傷を作っている刹那の姿があった。
「なんでそんな危なっかしい靴はいて旅してんだ?」
「だって、靴これしか……」
「コガネデパートで買わなかったのか?」
「う、いろいろごたごたしてたから……」
ちなみに買い物いけなくなって氷華が不貞腐れ、暴れたのは言うまでもない。
当時のことを思い出して苦笑いをしていると、刹那はどでんと音をたてて転んだ。
また、木の根につまづいたのだ。
「いた……っ」
「……はあ」
「……え、あ、う?」
うつ伏せから立ち上がると膝から血が流れていることに気付いた。
それを見て痛みに耐えながら唇を噛みしめる刹那。
見兼ねたシルバーがひょいっと刹那の膝と首に腕をすべり込ませて持ち上げる。
世間一般で言う『お姫様抱っこ』というやつだ。
それをされた刹那は突然の浮遊感に慌て、ようやく現状を把握すると?を浮かべて不思議そうな表情を浮かべていた。
お姫様抱っこに頬を赤らめる、というような様子はなかった。
「え、っと?」
「ふらふら歩いてたら危ないからな。こっちのほうが早い」
「ありが…と、う?」
目をぱちくりさせながらおずおずとお礼を言って、刹那はされるがままに大人しくする。
エンジュの焼けた塔で会ったときにこの人は怖くないと。だから大人しく、怯えて暴れることなくいれるのだった。
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