春は好きだ。


寒い冬から一転して、暖かい空気を運んでくれる。身体を包む程よい温もりは気持ちいいし、髪を撫でる春風は心地良い。出会いと別れの季節、だなんてロマンチックな表現はどうかと思うけど、まあ感傷的になるのもわかる。私だって感情ある人間だから。

まあ、どんなに言葉を並べたって、春と言えば日本人が真っ先に思い浮かべるものがあるでしょう。私は、それが一番好き。



『…綺麗な桜ですね』

「はい、そうですね」



綺麗な桜吹雪を撒き散らす桜並木。薄い桃色の花びらは幻想的で、うっかり感嘆の息を吐き出した。うん、やっぱり春はこれよね。


『あの、それで今日は何をするんですか京平先輩?』

「あれ?言ってませんでしたっけ?」

『…急に私の部屋に「出掛けますよ」って来たんでしょう。理由とか何一つなかったです』

「おや、うっかりしてましたね。言ったつもりでいました」

『はあ…。それで、何をするんです?』

「ただの散歩ですよ」

『…散歩、ですか』

「(デートなんて言ったら取り乱しますからね。ものは言いようです)」


今までずっと桜並木を歩いて今更な応答だったが、マイペースなのはいつものことなので2人は気にしてない。基本、幼なじみな2人は互いにこうしてのんびり過ごすことが多い為、デートという言葉に鈍感なのだ。幼なじみ故の壁は、その日常さなのだろうか。
日々京平が悩んでいる内容なのだが、残念ながら##NAME1##は彼の心境まではわからない。

最近になり、周りが色気づいて来たので、今では##NAME1##の方が京平に振り回されがちだ。色恋に敏感になってしまった自らの感情に振り回されないようにしてるのが、彼女のせめてものプライドだったりする。



「はい」


『…あの、』

「どうかしましたか?」

『なんですか、その手』

「散歩するんですから、手くらい繋いだって良いでしょう」

『…そんなもんですか?』

「そんなもんです」


半分以上嘘っぱちだ。

だが残念ながら、昔は手を繋いで歩くのが日常だったので、##NAME1##は少し戸惑いながらも京平の手を取った。
少しの戸惑いの中には、気恥ずかしさやらむず痒い感情やらとの葛藤があったりなかったり。流石に中学生になって幼少期同様の行動はなかなか出来ないだろう。しかしやってしまうのが、##NAME1##の京平への甘さだったりするのだ。





『(…手、大きくなったなあ)』


昔の感覚を思い出しながら、繋いだ手を意識する。

前に手を繋いだのはいつだっただろう。こうして2人並んで歩くことはあれど、昔よりも距離は離れていた感じがあったので、今回の行動は実に恥ずかしい。
それでも、離したくはないのだけれども。


『(なんか、京平先輩はどんどん大きくなっていく…)』


やっぱり、成長期というか、この辺りが男女の差なのかもしれないけど。それは少し寂しい。
掌から伝わる熱が心地良くて、肩から感じる京平先輩の気配がとても嬉しくて、気づかれないようにひっそりと目を閉じる。

マフィアだとかボンゴレだとか、沢山の非日常の中で強くなっていく沢田達や京平先輩に、少し気後れしていた。ただでさえ、守護者で一番戦闘力を持たないのだから仕方ないことかもしれないが、それでも不安は不安だった。



京平先輩が、自分の前から消えてしまうかもしれない。



命を懸けた戦いが行われるというのに、妙に落ち着いてる先輩。私の何歩も前を歩く京平先輩が、ヤケに遠く見えるのだ。
それだけは、いやだな。
自分でも気づかない位無意識に京平の手を握り締めていたが、それに気づいたのは京平だけ。



静かな空気の中、それでも##NAME1##はどこか吹っ切れたように目を細めた。



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