ズズズ、と麺を啜った。



『この味噌バターラーメンおいしいね。まいうー。ありがとうね豹くん紹介してくれて』


「んー、だろ? 目茶苦茶美味いだろ? この豚骨も最ッ高だし。一口いる?」


『ほしーい』



レンゲに掬ったスープを私に差し出す。それを啜った私は顔を綻ばせた。



『ふわあぁ! お口の中が郵政民営化やぁ〜……!』


「ネタが古いって」


『あはー、軋騎さん! おいしいですよっ! 本当に奢って貰っちゃっていいんですかー?』



団長に頼まれたフロッピーディスクを持ち帰った後、私と豹くんと軋騎さんは、豹くんのオススメのラーメン屋さんへと足を運んでいた。
内装はラーメン屋というより一端のレストランで、爽快な清潔感に満ちている。メニューもそこそこ豊富でラーメン以外にも餃子や炒飯、アイスなどもあり、そこらへんのファミレスに真っ向勝負を挑む体制には感服してしまう。
これがチェーン店ではないのだから、世の中珍味なものだよね。


そしてそのラーメンを奢ってくれるらしい軋騎さんに私は尋ねた。



「ああ。まあ俺も大人だしな……。ただ一つ、言いたいことがある」


「あー、なんだよ?」


『どうしたんです?』



神妙な面持ちで。
しかし呆れた声音で。



「ちがみはいいんだ……問題は、《凶獣》」


「は?」


「お前…………」



麺を啜る豹くんを睨み。



「それ二十八杯目だぞ」



ごちんなりまふ♪






「は? それが何?」


『いつものコトですよ?』


「いつもっ!?」



いつぞや。
私が団長のマンションへ行くと豹くんがいて、団長へのお土産に買ってきたサーティワンアイスクリームを『いる?』と聞くと、全種類買ってきた筈のアイスが五分後には三分の一にまで激減していたことがある。
勿論豹くんが平らげたのだ。

そのときの話を軋騎さんにすると信じられないものを見るような目で豹くんを見ていた。



「お前の胃袋はブラックホールか……」


「っせーな。速く走るためには並より食わなきゃなんないだよ。常識だろ」


「まあお前の脚が非常識だもんな」


「昔はもっと食べたぜー。今は大分落ち着いてる」


「もっと……?」


『冷蔵庫ん中空っぽになっちゃっただろーなあ』


「いや。うちの冷蔵庫は魔法の冷蔵庫だったんだよ」



はい?
魔法の冷蔵庫?



『何それ』


「魔法の冷蔵庫だよ」


『ふーん』


「俺が冷蔵庫の中身を平らげたら、次の日にはまるで急いで買い足したかのように冷蔵庫が満タンになるんだよなー、凄いだろ?」


「本当に急いで買い足したんだろ」


「その現象が凄すぎて、家内では“ミラクルパンサーイーティング”と呼んだ」


「気付いてほしかったんだろ」



結構豹くんて天然さんだなあ。私は苦笑した。そして麺をズズッと啜る。うん、おいしい!



「ていうかビックリした」


『ん? 何が?』


「いきなり式岸が来るのが」


「なんだ、悪かったか?」


「いや別にいーよ。アンタはまだ友好的だし。最悪なのが《二重世界》かな」


『あはー。苦手なんだね、豹くん。あ、でもダメだよ豹くん、年上の人を呼び捨てで呼んじゃあ』


「兎吊木はどうなんだよちがみちゃん?」


『え。兎吊木って人だったの?』


「あ。違うかもしんねーや」


「お前ら言うよな……」



イェーイ褒められたぜーい、と豹くんとハイタッチした。そんな私たちを呆れ目で見る軋騎さん。



『私は正直、《楽団》の中では一番兎吊木が苦手なんだよね。こーゆーのあんまり言っちゃダメだと思うんだけどさ』


「苦手で済ませれんだから全然いいよ。俺は嫌いだよ兎吊木は。この前なんかアイツ、《死線の蒼》になんて言われたと思う………?」


『…………………さあ?』



彼の憎々しそうな声に、私の隣にいる軋騎さんが、ああ、と小さく頷いた。



「アレか。“さっちゃんは私の運命の人か”」ガン!



豹くんが水の入ったグラスをテーブルに叩き付けた。周りのお客さんは一斉にこっちに視線を寄せるが、軽く会釈をしてなんとか整理をつける。



『あはー。なるほどね』


「……………」


「は?」


『まあ、薄々は気付いてたけどね』


「は? だから何が?」



軋騎さんは訳がわからない、という表情だ。



「……………何でわかったんだちがみちゃん」


『ん? だってーぇ』



私はニッコリ笑って。



『団長と話するとき、豹くんいっつも可愛い顔してんだもん』



―――――きっと。


彼は真剣なんだろう。

真剣に―――……………。



『団長、好きなんでしょ?』


「…………………は!?」



軋騎さんは声をあげる。



「あ。悪い? 《街》」


「えいや、あ、そうじゃなくてな」


『んもう、可愛いなあ豹くんってば。グチャグチャに捏ねくりまわしてあげようか?』


「いいぜ。俺はネッチャネチャにやり返してやんよ」



私たちはニヤニヤと見つめあう。なんてことはない、小学生並の口論だった。

そんな私たちに、軋騎さんはため息をつく。



「…………はあ。《凶獣》、つまりお前は暴君が兎吊木にあんな言葉を言ったのに嫉妬してるんだろ?」


「おう。メッラメラにしてるよ」


「…………素直だな」



素直なのは、いいことだ。



「畜生。俺なんか“君とは死ぬまで一緒にいたいな”くらいしか言われたことないっていうのに……!!」


『十分だよ!』


「……………あのな、ここだけの話」



軋騎さんは、私を指差して。



君になら、私はどんな姿だって見せてあげられるだろうね。



(って、コイツ、暴君に言われたことがあるんだぞ)(……………)(……っ!? びくびく(*_*;)(……ちがみちゃん)(はい!?)(ネッチャネチャにしてやろうか)(勘弁して下さい)



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