『……………あ、あばばばばっ』



私こと井崎ちがみは、結構本格的にピンチだった。

ピンチすぎてピンチすぎて。

ピンチック☆ピーチ! とか叫びそうだった。
うーん。
戯れてますなあ。



「うん? もしかしていーちゃん忘れてたの?」



青い目を爛々と輝かせた団長が、天使のような笑顔で私に再度言い放つ。



「Trick or Treat?」





お菓子なある日





世を騒がすサイバーテロ集団。
《仲間》。
首領《死線の蒼》によって集められた屈指のメンバーは、とある高級マンションに集まっていた。


まずは、《死線の蒼》。《凶獣》。《街》。《屍》。《害悪細菌》。《永久立体》。《二重世界》。《罪悪夜行》。《狂喜乱舞》。

そして《実力者》。


サイバーテロメンバーの一同が会する中、《実力者》井崎ちがみは冷や汗をかきながら絶句していた。



『………あ、の』


「うん?」


『え。と……今日、ハロウィンでしたっけ?』


「そうだよ、知らなかったの? おっちょこちょいなんだから、いーちゃんったら」


『あはー、もうドジでやんなっちゃいますねー……』



本気で。



私はチラと彼女の後ろ立ち並ぶ《楽団》の皆を見た。



『………どうしたんですか、皆さん』



皆の姿は、変だった。
ていうか噴き出しそうだ。



豹くんは豹耳カチューシャと尻尾を付けて、まさしくパンサーだぜーいみたいな姿である。

軋騎さんはいつものスーツ姿と打って変わって、まさかのポン・デ・ライオンの着ぐるみを着ていた。打って変わりまくりだよ。

ハッピーさんは顔に油井ペンで『私をぶって』、『お相手募集中』、『止まない飴はない(笑)』と書かれていた。飴……?

六月さんはまさかのハンバーガーチェーン店の有名なドナルドの格好だ。巧妙過ぎることに、メイクまでばっちりで一緒誰かわからなかった。

りばっちさんこと《罪悪夜行》は髪をリーゼントにされていた。真面目なキャラクターがリーゼントって…………残酷だなあ。

キョッキーさんこと《狂喜乱舞》は床でブリッジしていた。ちなみにその上には団長が座っている。腹筋やばいよこの人、ガチで。

《害悪細菌》に至っては白い全身タイツを身に纏い、頭の上にはマスクメロンが乗っている。駄目だ、発想についていけない………。



ちなみに。

《二重世界》、日中涼は悠然とした顔で得に奇異たる点もなくソファーに腰掛けていた。



『あ、の。どういう状況で……?』


「俺ら、お菓子渡せてない組……」


そうドナルド六月さんが答えた。
補足するように軋騎さんが続けた。
………ポン・デ・ライオン可愛いなあ。



「ハロウィンをすっかり忘れてたからな。暴君にお菓子を渡せてないんだよ」


『で、“Trick”……つまりは悪戯にあったと』


「その通り」



六月さんはドナルドの顔で笑う。
駄目だ、怖いよう………。



『あ、でも豹くん可愛いーっ!』


飛びつくように移動して、私は豹くんの頭を撫でた。
すると彼はのぞけるように後退する。



『可愛い可愛い! ねぇ、写メっていいかなあ?』


「嫌に決まってるだろうが!」


『ふぇえっ!? 何でよっ!? 目ッ茶苦ッ茶可愛いのにっ! えいっ☆』



ハイ、おっぱっぴー♪



「何ですかそのシャッター音! 古ッ!」


『でもそんなの関係ねぇ!』


「声真似がウザいです!」



妙に狼狽したりばっちさん。
眉に皺を寄せ、口元は引き攣っていた。
彼に私は微笑みかける。



『りばっちさん、まあ今はアレですけど。いつかそのリーゼントも壮大なキャラチェンジなんだって許して貰えますよ』


「許さなくていいです」


『そんな貴方を、激写!』



イエス、フォーリンラブ♪



「ランダム設定かよ! ていうかどんなシャッター音なんだよちがみちゃん!」


『そういう豹くんのシャッター音はプリキュアじゃんかよー』


「事実に掠りもしねぇ捏造すんなや!」


『タイトル、“怒鳴る豹”』



味のIT革命や〜♪



「だからそのシャッター音何なんだ!?」



豹くんはシャウトし続ける。
私はシャッターを押まくる。
可愛いなあ。



『あ、軋騎さん。ちょっと“がおー”とか言ってくれません? ムービー取りますから!』


「お前の携帯逆パカしてやろうか」


『フッ、残念。スライド式です』


「どや顔がウザい!」



無理矢理六月さんとのツーショットを押さえた。六月さんは結構ノる人だから、あとでムービー送って、とお願いされた。
軋騎さんはうなだれている。
やばい。
超可愛い。

だが。



『ハッピーさん………』


「……………」



女性なので。
一番触れてはいけないデリケートな部分だけれど、テンションがハイな私は命知らずに話し掛ける。



『大丈夫ですか?』


「何も言うな……」


『良いんですか?』


「だから何も……」


『ぶって、あげましょうか?』


「君を本気で殺したくなった」



ジロリ、とハッピーさんに睨まれる。
顔に書かれた落書きに思わず噴き出しそうになった。

いけないいけない。

そこで私はバッチリと《害悪細菌》と目が合う。
うげ。
私はげんなりした。



『兎吊木……』


「どうしたんだい? 《実力者》」



にこやかな笑顔で手を広げて歩み寄って来る彼。

はっきり言おう。
キモイ。



『………絶句モンの格好だね』


「写メりたいか?」


『何自分から聞いてんの!?』



なんて男だ、コイツ。



「……………それよりも《実力者》」


『うん?』


「良いのかな? 君は。《死線の蒼》にお菓子を渡さなくって」


『……………ッが!』



なんやかんやでうやむやになってた事実を掘り返しやがったこの男!



『あ、う。あう………』


「あれ、いーちゃんも無いの?」



不機嫌そうに、御機嫌そうに。
団長は笑う。

やばい!



『う、わあ……ぁの』


「ちなみに、…………僕にお菓子をねだるなんて辞めてくれよ?」


『あ、フリッキーさん』


「それは辞めろ」



《仲間》内で唯一お菓子を持ってきていた彼が私に冷酷に言い放った。



『ちなみに何のお菓子を持ってきてたんですか?』


「………? マシュマロ」


『かーわーいー!』



バコン!

頭を殴られました。

しくしく(/_;)



「んー、忘れたんだね。いーちゃん」


『ぎくっ』



私は団長の声に凝結する。



「………仕方ない、悪戯しちゃうよ」



と。
彼女は私に飛び掛かった。
ひょい、と軽い体重は、勢いをつけて私に体当たる。

ぐほっ!

床に大胆に倒れ落ちた私。
そんな私に跨がる団長。
あれ。
なんかときめきそう………。


って。



『その手に持ってるメイド服はなんですかっ?』


「悪戯道具。いーちゃんには、今日一日これを着てもらうよ。今、ここで」



ん?

ここで?


と、団長はいきなり私のブレザーのネクタイをしゅるりと緩め始めた。絶句する私を差し置いて、団長の手は動き続ける。

まさぐるようにカーディガンをガバリと胸上まで持ち上げられて、そのままカッターシャツのボタンがプチプチと外されていく。


って。



『きゃあああぁぁぁぁああぁッ! 団長団長団長団長団長団長団長団長団長あああああにをやっていらっしゃるんですきゃああああッ!』


「だって皆もここで私が着替えさせたんだもん。いーちゃんも私がここで着替えさせるんだよ」


『皆見てます皆見てます恥ずい恥ずい恥ずいっ!! 今モーレツに恥ずいです! 照れ臭いってレベルじゃないですよコレ! ダイジェストコレ!』


「黙れ」


『ひやぅッ!』



シャツ越しに私の胸を揉まれた。

ちょ!



「は? 嘘でしょ? 同い年なのに何この胸の膨らみの差。ふざけないでよ。私なんかショック受けた」


『ひ………ぅ、あの、お、団長ぁ……ッ!』


「うふふ、顔真っ赤ないーちゃんってエロいね。あ、誰か一緒にいーちゃんに悪戯したい人ー」


「はーい」


『ぎゃあああ六月さん来ないでぇえ! 馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿! うわあああんヘルブ豹くんっ! アイムピンチなう! なあああああああうっ!』


「チッ、ちがみちゃんマジ羨ま」


『今は私に嫉妬すんなああッ!』


「おい兎吊木、あんまりガン見してやるな!」


『ナイス軋騎さんナイひゃあっ!!』



団長は私のスカートの中に手を入れた。



「あ、やっぱスカートの中ズボン穿いてた。はーい脱がしにかかるよー」


「俺がやりましょうか?」


『六月さんあとで殺す!』




お菓子なある日



(もう駄目だ、我慢できない。いーちゃん私とイイコトしない?)(団長ああああっ!?)



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