そもそも信仰対象が違っていた話


そもそも信仰対象が違った話*

「古橋って相っ変わらず花宮厨だよねぇ」

きっかけは多分原のこの一言。山崎と瀬戸が同意して笑いあってる中ひどく冷たい音が落ちた。

「はぁ?古橋は俺のこと何にも思ってねぇよ。くだんないこと言ってんな」
「どーかんだね。古橋はむしろ花宮のこと嫌いなんじゃない?僕は詳しく知らないけど」
「嫌いではないが、別に花宮厨と呼ばれるほど信仰してるわけでもない。普通に友人の枠に収まる程度じゃないか?」

普段はほんわかとした雰囲気をまとっている花宮の冷たい言葉。山崎に対してはデレッデレの陽からの感情のない言葉。そしてなにより本人からの否定の言葉。それら全ては今までならあり得ないことで、思わず声をあげるのも無理はない。

「はぁっ!?いやいやいやいや、古橋花宮の命令しか聞かないじゃん!あれで花宮厨じゃないとか言わせないよ!?」
「俺らが何言っても無表情で面倒クセェみたいな目ぇ向けるくせに、花宮からなら二つ返事だろ!?あれがただのダチ同士の距離感なら俺ら他人だからな!」
「……いやないでしょ」

口々に言うも三人の表情は変わらない。むしろ一言言うたびに陽の表情は怒りを表している。

「……この会話続くなら僕スカウティング放り出して帰りたいんだけど。説明は君達でできるでしょ」
「無理、俺の口からこんなこと言いたくない。聞かれたら古橋あたりが答えるだろう」
「そもそも聞きたくないんだってば。君らきもいから」
「きもくない。つーか、お前俺の妹嫌いすぎるだろ、バァカ」
「やめてやめてやめて。あのチビの話題出されると結構鬱になんの。なんなの君もあのチビもその周りもイイ子ちゃんすぎて吐き気催すんだけど」
「ざけんな、俺は別にイイ子ちゃんじゃねぇよ。詩織の周りは天使かと思うほどイイ子ばっかりだけどな」
「だからその名前をださないでっていってるでしょ?霧崎第一の天才サマはその程度読み取れなかったわけ?」

「そもそも花宮を信仰してるかどうかだろう?なのになんでお前らは口喧嘩を始めるんだ?」
「だからお前の信仰対象がうちの妹だって話だろうが!!」
「僕はそいつの話を聞きたくないから僕の前以外で話してねっつてんじゃん!それを無視して妹自慢始めたの花宮でしよ!」
「うちの妹は天使だ、異論は認めない!」

普段声を荒げない花宮も陽もだんだん語尾が荒くなっていく。そしてその話の中心となるのが花宮の妹らしい。

おい待て妹いんのかよ、初耳だ。と山崎が驚いた声を上げる。

花宮はゲスい演技をしている間は年相応と言うか寧ろ大人びている。そして演技なしの日常では花宮はふわふわとその名の通りお花を飛ばしてる少年である。電話をしている時ごく稀に翔兄と言っているのは聞いているが、彼から女性の名前が出てくることなんてまずない。しかも今の口ぶりからするとかなり溺愛してることが分かる。

「花宮の一つ下で、花宮とはまた系統の違った美人だ。少し背が小さいことがコンプレックスだと言っていたが、彼女を形成する上であの身長は寧ろプラスにしかならないな。あぁ、彼女を語る上であの美しいハニーブラウンの髪と同色の瞳は欠かせない。光に反射してキラキラと光る髪は思わず撫でたくなるし、ベビーフェイスに反して意志の強い瞳に見つめられれば心拍の上昇が数日は治らない。そしてついで素晴らしいのはあの瞬発力を生み出す足。小枝か、と思う程細い足はしなやかに筋肉が付いていて無駄な肉はない。あの足に蹴られたらさぞイイんだろうな、ナニがとは言わないが。あとはあの甘ったるい声だ。甘ったるいとは言ったが全く悪口ではなく、彼女の声は耳に馴染むんだ。あの声で『康さん』なんて呼ばれてみろ、俺の死んだ目が輝く、ドン引く程度には輝く。もちろん俺のスマホのすべての音声は彼女の声だ。毎日『康さん、起きて』やら『おやすみなさい康さん、良い夢を』、『康さん電話だよ?早くでないとダメだよー』、『ゆーがっためーる!』などなど。出来れば俺への連絡は電話かメールを使用してくれ。ラインでは彼女のボイスが再生できないからな」

「「「「「気持ち悪!!!」」」」」

五人の声が綺麗に揃った。あと古橋の瞳はどう足掻いても輝かない。

「人様の妹をそんな目で見てやがったのか!?スマホかせ、叩き割る!!」
「どうせこの変態のことだからPCとか他の機械にバックアップとってるでしょ。気持ち悪」
「顔見たことないけど花宮の妹可哀想……。古橋気持ち悪」
「つーかわざわざ録音してるってことは本人に言わせたってことでしょ?気持ち悪」
「古橋のアレって花宮に対してが最高だと思ってたけど、さらにその上があるんだな。気持ち悪」

五人それぞれにバッシングを受けながらも古橋はどこ吹く風。寧ろ自分の信仰対象について堂々と語れたことに満足した様子だ。ついでに殺気立った目で殴りかかる花宮からはひょいひょい避けてスマホを守っている。

「ちくしょう身長縮め!なんで詩織はこんなやつにぃぃぃいいっ!!俺だって『まこちゃんおはよぉ』って言って欲しいのに!!なんならテツヤとショーゴと優花も一緒に言ってくれれば……うわ最高じゃねぇか」
「花宮も同レベルで気持ち悪い、だと!?」
「こいつの幼馴染厨+身内厨は筋金入りだからね。ちなみに君たちも一応身内には入ってるみたいだから身の振りには気をつけなよ」
「花宮には怖〜いお友達がたくさんいるようだからな。まぁ詩織には敵わないが」
「詩織が下僕を作ってたほうがいいよー、って言ってたから作っただけだ。下僕の質は幼馴染の方が格段にいい。特に和のお友達なんかは、人数こそ俺らの中で一番少ない。けど敵に回したら一瞬で俺らなんか消されるくらい怖い奴らばっかりだ」

しれっとそう言う花宮に5人の視線は集まる。このどこか抜けた主将様は自分の言ってることの可笑しさに一切気付いていない。寧ろお前らなんで下僕いないの?と純粋無垢な瞳で聞いてきそうな恐怖すらある。

普通の男子高校生には下僕はいない。もしいたとしてもそんなに怖い奴らとはつるまない、と声を大にして言いたい。

「だから言ったでしょ。こいつら頭おかしいんだって。自分たちが常識、周りがおかしい。そう思って育ってるからズレが生じるのも無理はないよ。まー、僕らに被害がなければなんでもいいけどー」
「陽は、陽はそんなのいないよな!?」
「彼女の意外な一面見ちゃうー?ザキってばチャレンジャーだねぇ」
「いや寧ろ怖いもの見たさなんじゃない、ふぁ…」
「ふむ、信仰対象の話からなぜ花宮の異常さに話が逸れるんだ?俺はいくらでも詩織のことを語れるんだか」
「俺のほうが詩織のこと知ってますー!俺があいつの兄貴なんだからな!お前のじゃないからな!」

話がそれて、6人で笑って。ただの日常。だけどどこか異常なその光景を笑っていられるだけで彼らはきっと異常なのだろうと。

周囲の人間から弾き出された彼らの居場所。笑いあえるのならそれでいい。そして彼らは今日も笑う。

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