兄とわたしとそれから無冠


「あらぁ、詩織ちゃんじゃなぁい。こんなところに何の用かしらぁ?」
「え、まじ!うわ、花宮抜きで妹が来るのとか珍しすぎねぇ!?」
「げーっぷ。腹減った」
「ははは、相変わらずよく食べるなぁ」

個性豊かすぎる面々。兄と同じく天才に一歩及ばない天才、無冠の四人。兄と交流がある彼らとはわたしもほんの少しだけ交流がある。どうしても好きになれなくて兄が付いてきてほしいと言うとき以外関わることはなかったけど。

「……兄が泣いていました。あの人は泣き虫だけど、バスケに関しては簡単に泣くような人じゃない。あなたたちは兄に何を言いましたか。あの人を傷つけた、自覚はありますか」

可笑しいとは思っていた。兄が大好きなあの学校のバスケ部が簡単に兄を裏切るような言葉を吐くか?一応もしものために脅しはしたけれど、多分彼らは兄の心を傷つけた行為に加担してはいない。

だとすれば兄の心を傷つけられる要因なんて同一視されている無冠のメンバーしかいない。だってこの人たちは悪意なく兄を傷付ける天才なんだから。

「えぇー、だって本当のことじゃねー?」
「そうねぇ。あの子だけ私たちの中でも異質っていうか……仲間はずれだったじゃない?」
「曲がりなりにも無冠に数えられんならもーちっとマシな試合しろよなあいつ。同じくくりに入れられて恥ずかしいぜ」
「はははっ、あれで折れるなら花宮はその程度の選手だったってことだろ?何を怒る必要があるんだ?」

葉山、実渕、根武谷、そして木吉が悪びれもなく言う。なんでそんなひどいことを笑って言えるの。あなたたちはバスケットボールプレイヤーとしての誇りはないの。

「ふ、ざけないで!まこちゃんはあなたたちと同じ名をもらい、それに恥じない努力をしてきた!決勝にすら残れなかった分際でまこちゃんをバカにしていいと思ってるの!?」
「でも俺らが決勝に行けなかったのはメンバーが悪いよな?ほら対戦相手とかさー」
「あの子は運が良かっただけよねぇ。あーぁ、運だけで進めるなんて羨ましいわぁ」

運?まこちゃんの努力をこいつらは運の一言で終わらせるつもりなの?馬鹿じゃないの。対戦相手はくじで決まるけど、勝てるかどうかなんて実力でしかないでしょ?実力をつけるための努力でしょ?

すぅっと頭の中が冷静になる気がした。勿論腸は煮えくり返ってるし、今すぐ目の前のこいつらを蹴り飛ばして2度とまこちゃんの目の前に現れないよう土下座させて誓わせたい。でもそんなことすれば悲しむのはまこちゃん。だからわたしはわたしができる強がりをするよ。

「……あなたたちの考えはわかった。理解したくもない下衆の発言だけれど今回だけは何もしないでおいてあげる。でももし、もしもまこちゃんがまた泣くようなことがあったらわたしは絶対容赦しない。わたしの持てる力全部使ってあなたたちを糾弾する。あなたたちがバスケをできなくなってもしーらない」

わたしのオトモダチすごいんだから。

何をされたっていい、何を言われたっていい。わたしにとって守りたいのはまこちゃんなの。わたしの大事な家族が泣いていないならそれでいい。

だからね、ずっと怯えてたらいいよ。教えてあげないから。わたしは兄を守るためならなんだってできるの。血の繋がらないわたしを全力で守ってくれるあの人だから。

「絶対、謝らせてあげないんだもん」

べ、と舌を出してポケットにしまっていたボイスレコーダーを取り出す。ボタンを押せばさっきまでの会話が流れてくる。にぃっ、と笑ってやれば彼らもわたしが何をしたいのか分かったらしい。

「もし、これから先まこちゃんに関わる気ならあなたたちのチームメイトにこれを送る。偽善者ぶってもあなたたちはキセキの世代と一緒。あなたたちは天才なんかじゃない。我儘言ってるただの子どもだよ。それならわたしたちの方が断然恵まれてる!だってわたしにはまこちゃんがいる、翔一がいる、和くんがいる、祥吾もテツヤも優香ちゃんも他にもたくさん仲間がいる!仲間を……チームメイトを見下すあなたたちになんて、絶対負けないんだから!」

そう言い切ってわたしは踵を返す。もうこんな人たちと1秒でも一緒に居たくない。彼らがどんな顔をしてるかなんて、振り向かなくてもわかるでしょ?

ふふ、ばぁか。

悪童の妹だよ?手緩いことなんてするわけないじゃん。

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