ホントの話
高校三年生になった。あの女は死んだ。あいつも恋人ができた。あの人の想い人はみーんないなくなった。あの人を愛する女は私だけ。
もういいでしょう?私に振り向いてくれたっていいでしょう?ずっとずっと好きだったの。他の誰よりあなたが好きなの。
「テツくん、あのね、私ずっとテツくんのことが……」
ほら、振り向いてよ。私頑張ったんだよ?
テツくんが髪の綺麗な女子が好きだって言うから毎日手入れしたよ。テツくんが笑顔が好きだって言うからテツくんの前でずっと笑ったよ。テツくんが背の小さな女の子が好きだって言うからヒールはやめたよ。テツくんが頭のいい女の子が好きだって言うから勉強頑張ったよ。テツくんが料理の得意な女の子が好きだって言うから料理だって頑張ったよ。テツくんがバスケを好きな女の子が好きだって言うからずっとバスケに関わってるよ。
テツくんがあの子を好きだって言うから、あの子を消したよ。あの子のことを好きだっていった部分全部壊したよ。
あの子の蜂蜜色の髪も、笑顔も、頭の良さも、料理をする腕も、バスケをする身体も全部全部壊したんだよ。だっていらないもん。テツくんが私以外の女の子を好きって言う部分なんて全部壊れちゃえばいい。
あは、はは。あはははははははははは、ひ、ぁははははははははっ!!!
「……桃井さん、もういいんです。全部分かってます」
「テツくん……っ!」
受け入れてくれるよね。私頑張ったもん。
「あなたが詩織さんを陥れ、結果として殺してしまったことも、優花さんを傷付けていたことも、祥吾くんを部活から追い出すよう仕組んだことも全部知ってるんです。いえ、こう言えばあなたを責めてしまうことになる。ボクが意気地なしで、あなたに気持ちをはっきりと伝えていなかったからこうなってしまった。この悲劇を引き起こしたのはボク自身の弱さだと認めたくなかっただけだ。だから、今度こそ間違えたくないんです。ボクはボクに嘘をつきたくありません」
え、なんで。なんで、そんな冷たい目で私を見るの。ねぇ、なんで、なんで!!
「知らない知らない知らない!あの女たちがテツくんにまとわりつくのが悪いの!テツくんは私のなのに、私を一番に考えてなくちゃいけないのに!」
「桃井さん、ボクはボクの友人たちを傷付けたあなたを絶対に許さない。あなたを、絶対に好きになんてならない」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!なんでなんで、私ばっかり認められないの!ずっとずっと好きなのに、テツくんをずっと見てたのに!テツくんがどれだけあの女たちを好きでも絶対に振り向いてくれないよ!?私は違う、ずっとずっとテツくんだけを見続けるの!テツくんに近付く女は全部消す。そうしたらテツくんは私だけを見てくれるよね……っ!」
そうよ、まだ足りないの。テツくんが私だけを見るように、私だけに縋るように。全部壊さなきゃ。うん、知ってますよ。全部全部……。
「もう、終わりにしましょう。たとえあなたが何をしてもボクは逃げません、負けません。一生あなたを恨み続ける。ボクを想ってくれていたあなたならボクの気持ちを理解してくれるでしょう?」
「知らないっっっ!!私のモノにならないテツくんなんてテツくんじゃない!あの女に毒されたのよ!だってテツくんは私に優しくて、支えてくれて、側にいてくれるもの!!うふ、あはははっ!大丈夫だよ、テツくん。私が治してあげるから、元の優しいテツくんに戻してあげるから。……ねぇ、なんで笑ってくれないの?笑ってよ、笑えっつてんでしょ!!!!」
いらない。私のモノにならないテツくんなんて。
懐から取り出したカッターナイフを手首にあてがう。ほら、優しいテツくんなら放っておけないでしょう?私の命程度でテツくんが私だけを見てくれるのならいくらだって捨ててあげる。
ポタポタと垂れる鮮血を見てテツくんは表情を変える。あぁ、その顔も素敵。
「桃井さん…っ」
「ふふっ、2人で……ずーっと2人っきりでいよう?痛くないの。テツくんが私だけをみてくれるならこんな傷。あぁ、これはテツくんの愛の試練なのね。大丈夫、テツくんのためなら命だって捨てられる」
だからお願いだよ。
「私を見てよ!!」
ぱしん、と強い力で頬を叩かれる。何が起こったのか分からない。目の前で顔を歪ませたテツくんが酷く泣きそうな顔をしているのだけは分かったけど。
叩かれた衝撃でナイフは飛んだ。それをテツくんが蹴り飛ばしたからもう私の手には私を傷つけるものはない。
「……ボクが一番嫌いなことを教えましょう。ボクはね、自分の命を粗末にする人が大嫌いです。彼女は生きたくても生きられなかった。ずっと幸せになりたいと願っていた。未来を想っていた。彼女の夢はあなたみたいな自分勝手な子どもの癇癪で潰されていいものじゃなかったはずなのに」
「わた、私は……!」
「ボクのため?笑わせないでください。あなたは自分の罪を認めたくないだけです。ボクを好きだと言うことを免罪符にして、好き勝手やってるだけです。あなたは本当は……」
「やめっ、やめて!言わないで!」
やめて、やめて。
ぱきり、ぱきり、と小さく何かが割れる音が聞こえる。ずっと見ないふりをして来た。テツくんのためだからって、私は悪くないって言い続けて来た。好きだから、振り向いて欲しいから。
「ボクのこと好きじゃないくせに」
「いっ、あ……嫌ぁぁぁぁぁああっ!!違う違う違う!私はテツくんが好き、好きなの!否定しないで、だって否定されたら私の今まではなんだったの!?」
分かってたの、本当は。認めたくなかっただけ。テツくんと同じ、認める勇気がなかっただけ。人1人殺した、人生を狂わせてた責任を取る覚悟がなかっただけ。好きだっていっていれば罪悪感なんてなかった。
テツくんのためにやってるんだから私は悪くない。振り向いてくれないテツくんが悪い。
そうよ、ずっとそう思ってた。
空気が抜けたように崩れ落ちた身体はもう私の意思では動かすことができない。このまま死んでしまえばどれだけ楽なのだろうか。私はこのまま死んでしまいそうになるほどの罪悪感を抱いて生きていかなくちゃいけない。逃げたい、死にたい。そんな想いが頭をぐるぐる回っていく。
「手は、差し伸べません。死にたければ勝手に死んでください。それでも、あなたが犯した罪は消えない。ボクたちは一生覚えています。あなたの自分勝手で死んでしまった大切な女の子のことを。そしてあなたを一生恨み続けます。あなたは死ぬまで……いや、死してなおその罪を背負い続けなさい」
そういってテツくんは私から離れていく。手を伸ばす気力もない。
私は、私の恋心はずっと好きだった人に殺された。もう二度と会うことはないんだろうと、空っぽの心の中でそう理解した。
***
全ての元凶はももーいちゃんでした。脳筋バカたちに分かりやすく計画を立て、自分の手は汚さずに詩織を追い詰めた人。
黒子っち好きすぎて病んだ。黒子っちのためにやってると言う意識が根底にあるので、何をしても罪の意識は薄かった。というか罪を理解したくないから本来感じていた恋心が過剰になり、桃ちゃんの中では黒子っちは神様みたいに神聖な存在になってるはず。なので神様本人に否定され、黒子っちに殺されたと言われても過言ではない子。
黒子っちも桃ちゃんを否定したら壊れてしまうことに気付いていて中学時代はなぁなぁな態度をとっていた。それでも詩織が死んでから二年が経って桃ちゃんの過度な愛情が止まないし、イライラが募った結果桃ちゃんを壊すという選択肢ができた。黒子っちも黒子っちで桃ちゃんを壊したっていう罪悪感に一生苛まれながら生きていくんじゃないかな。桃ちゃんと違ってこちらは覚悟があるからぱっと見まともに生きてそうだけど。
この後は青峰に回収されて一緒に罪を償っていくんじゃないかな。多分ろくな大人にならないし、ろくな生活送れないだろうけど。
個人的なイメージとして桃ちゃんは愛されたがりの依存体質っぽいからなんかもう青峰っちお疲れ様ですとしか言いようがない。
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