悪童が生まれた日


「ってな感じ。改めて話してみると完全に俺の八つ当たりだな」
「真さん、無理しないでください。震えてます」
「……っ、ヘタレなんだよ仕方ねぇだろ!」
「ちなみにその妹は……」
「死んだよ、この間のWCの途中。いつ死んでもおかしくねぇって言われてた。けどあいつ負けず嫌いだから怪我で死にたくないって飛び降りやがった。キセキの世代になんか負けてやんないって」
「ご、ごめん。辛いこと思い出させて」
「詩織さんはお強い方でしたから。だからこそ何もかも自分で抱え込んでしまったんです。ただ一言助けて、と言ってくれたらどんなことでもしましたのに」
「それが出来ないのが詩織クオリティなんだよ。テツヤたちが罪悪感感じる必要はねぇ。むしろ妹の支えになってくれて礼を言わなきゃなんねぇからな」


確かに妹が死んだのはついこの間だし、正直マンションに一人でいるのも辛い。だけど辛いばかり言ってたらあいつに笑われる。すげー強い妹の兄なんだ。頑張らなきゃいけないんだ。

「な、木吉先輩がそんなこと言うわけねぇだろ!」
「言うよ。あいつは、あいつらはそんな奴らだから。正直お前らの前では猫被りすぎて気持ち悪い」
「あの人ボクらの前ではボロ出しませんしね。チームメイトでなければボクだってあんな人に近づきませんよ」
「木吉は確かに性格悪いけどそんなこと本当に言うのか?わざと挑発してるように俺は思たけど」
「せ、性格悪いんですか?伊月先輩が言うくらいなら相当でしょうけど……」
「あいつ俺と妹のこと嫌いだから。まぁ俺だってあいつら嫌いだからwin-winなんだけど。お前らは好かれてるから多分あいつの最低な部分は見れねぇよ。あいつそう言うの隠すのアホみたいに上手いから」

しょうがねぇじゃん、お互い嫌いあってるなら傷えぐるのだって。あいつは天才じゃない俺が天才と崇め奉られるのが嫌。嫌なら徹底的に排除しようって考えの奴だから碌でもねぇ。よく誠凛みたいなイイコちゃんのチームでやってるよ。洛山とか桐皇みたいな個人プレーのチームの方が向いてるんじゃね?興味ねぇけど。

「で、眼鏡くんはさっきから黙り込んでどうしたわけ?別に信じようが信じまいがどうでもいいけど、もうラフプレーする意味もなくなったし街中で会って声かけるのやめてくれる?」
「……テメェの妹の髪は長いか?」
「は?ま、まぁ長いな。綺麗なハニーブラウンだ」
「華奢で小さくて琥珀色の瞳。元々SGだったけどPGの選手に憧れてコンバートしたっつー、二宮詩織のことか?」
「日向先輩詩織さんのことご存知で?あれ、でも出会う機会なんて……」
「どこで出会ったんだ?詩織がコンバートの経緯を話すなんて珍しいにも程があるんだけど」

あれ、流れが変わった?まだ後ろから睨みつけてくる10番くんとそれを抑える爽やかくんとベンチくん。詩織の話題が出て顔を輝かせる(すげー分かりにくいけどテンションが上がってる)テツヤ。はっきり言って俺目線からしたら不審者にしか思えない眼鏡くんの発言。これもしやばいことになってたら俺殴るよ?

「はーーぁ、信じる。花宮があの子の兄貴なら言ってること本当だろうし、嘘はつかねぇ」
「先輩何言ってんだ、です!こいつはラフプレーなんかするようなやつだぞ!」
「火神落ち着いて!ここマジバだから、ただでさえ目立ってんのにやめて!」
「……理由、聞いてもいいか?」
「あー、助けられたから。高校一年生の時、バスケに絶望してた。でも本当はバスケが好きだってあの子が思い出させてくれた。んで、そん時に自分にはヘタレな兄貴がいるって話聞いてたんだよ。まさか花宮だなんて思わなかったけどよ」

おふ、まさか妹が眼鏡くんと接触してたとは。多分、いや月が誠凛に行ってるの知ってるしわざと接触したんだろうなぁ。

愛くるしい見た目の割には悪魔のような思考回路の妹の策略をこの優秀な頭は弾き出し、ため息を吐く。あいつどこまで未来が見えてんだよ。

まこちゃんのためならなんだってするよ?と意地悪く笑った妹を思い出し少し悲しくなるけれど、手回しありがとう。でも未来予知とか怖すぎるので今後はやめていただきたい。と思いつつあの妹なら自分が死んだ後の俺を想って色々やってるんだろうなと現実逃避しておく。

「木吉には謝らねぇ。だけど今後ラフプレーはしねぇし、三年になったらバスケも辞める。だからもう街中で会っても突っかかってくんな」
「バスケ辞めるんですか!?」
「お、な……なんでベンチくんが反応早いんだ?」
「や、あの!オレ春からバスケ始めて、まだ全然なんですけど花宮さんのプレーすごく綺麗だと思ってて!好きじゃなかったらあんなプレー出来ませんよね?なら、なんで……」
「俺も花宮のプレーはすごく綺麗だって思うよ。復讐にラフプレーって手段使ったのはどうかな、って思うけど花宮は俺なんかよりずっとすごいプレーヤーだから。また一緒にバスケしたいんだけど」
「……ぴゃ!?」

ベンチくんと爽やかくんが詰め寄ってくるのが怖い。特に爽やかくんはうちの古橋に似て目のハイライトがないからもっと怖い。

プルプル震えて声が出ない俺に変わってテツヤがさらりと言う。

「霧崎第一は進学校ですので部活は二年生までしか参加出来ないんですよ。申請を出せば続けられますが、真さんお忙しいので本格的にバスケをするのは二年まで……と元々決めておられましたから」
「ん、んっ!」
「もう、キョドる真さん大天使ですね。でも、公式でのバスケは辞めてもボクらとはしてくれなきゃ嫌ですよ?ボクだって真さんのプレー大好きなんですから」
「え、それはやだ」
「ま こ と さ ん ?」
「喜んでやらせていただきますぅ!!!」

もう、テツヤ怖い!みんな怖い!

あぅ、と呟いてテーブルに突っ伏せば爽やかくんの黒い声。もうどうにでもなぁれ。ヤバくなったら翔一さんと和がなんとかしてくれるし俺は流されとく。

あれなんで10番くん俺のこと哀れみの目で見てんの?大丈夫大丈夫、俺昔からこんな役割だったから。


でも、身内以外に初めてこんなこと話した。別に何も改善してるわけじゃないけど、なんか胸がポカポカ暖かくて頭がふわふわしてる。


気付けば幼馴染の前みたいに気が緩んでふにゃふにゃ笑ってしまう。ダメだって言われてたのになぁ。

「ふへへ、ありがと」

大丈夫、俺はまだ頑張れるから。

でもなんでみんな一斉に目をそらすんだ?テツヤは写メりすぎだけど。

***
気を抜いたまこちゃんは天使です。作中の誰よりも女子力が高く、気配り上手なので女性に生まれていたら引く手数多だったらいいな。本人自覚なしだから幼馴染組が必死で守ってるけど誠凛にバレたことがきっかけで色々バレる。たぶんまこちゃんはお腐れルートに突っ走るんじゃないかな?


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