悪童が生まれた日


そもそも悪童という名前はオレだけのものじゃなかった。

詩織が分析して、和成が把握して、オレがパスコースを全部覚えて、翔一さんとスティールする。オレが取り上げられるようになったのはただこの四人の中で一番目立ってたから。無冠って名前は嫌いだけど悪童は四人の名前だから好きだった。

関西では結構有名だったんだぜ?詩織とオレの頭と、和成の鷹の目、翔一さんの交渉術。よくこの悪童どもがぁっ!って罵られてたけどそれすらも楽しかった。

それだけだった。オレにとって悪童って名前は幼馴染を繋ぐものってだけで、天才とかなんとか囃し立てられる意味がわからない。だってオレは天才なんかじゃないから。

ん、なんでそんな訳がわからないみたいな顔するんだ?俺は天才じゃねぇよ。他の四人は天才と呼ばれるべき存在だろうけど。

だってオレは一人じゃ何にもできない。分析も把握もなんだかんだできるようにはなったけど、スティールするためには誰かが居ないとダメだ。蜘蛛の巣っていう作戦はオレ一人じゃ成り立たないんだよ。

他の四人は違うだろ?木吉も実渕も葉山も根武谷も一人でチームのエースを張れる。オレとは違う存在だ。

あぁ、なんで木吉をこんなに嫌って膝を壊したかだったよな。

あれはオレが三年生の時、全中で帝光と当たった。もちろん帝光は優勝したからオレらが負けたのは言うまでもねぇ。そもそもオレらは天才の一人もいないチームだったから準々決勝まで残ったのは良い方だったんじゃねぇの?知らねぇけど。

そんなこんなでオレらの全中が終わってそのすぐ後かな。無冠の奴らに囲まれたのは。

正直覚えてたくないから記憶は曖昧、って言いたいとこだけど忘れられない。頭がいいってさ、こう言う時不便だよな。忘れたくても刻み込まれた記憶は消えない。

なんでお前なんかが、無冠で一番弱いくせに、恥晒しって、ガキみてぇにわんわん喚きやがった。知ってたか、オレらが最高学年の時無冠で一番順位高かったのウチなんだ。笑えるよな、オレが一番平凡なのに天才に勝ってたんだぜ?

まぁオレだって普通の人間だ。自分よりでかい男に囲まれてたら怖い。つーかオレは自他共に認めるヘタレだからな!

あー、その時にな、木吉に言われたんだ。

お前なんて一人じゃ誰にもかなわないくせに。妹は天才だけど、お前には才能は与えられなかったんだから。ざまぁみろ、お前は一生妹に勝てない。″

って。あいつもチームメイトとトラブってたからパニックになって言ったんだと思う、てかそう思いたい。

正直それくらいならオレはキレなかったし、何か知らねぇ他人が分かんねぇこと言ってるなとしか思えなかった。

だけどその後木吉がドンってオレを押しのけて駆けて行った。オレだって昔は今より小さかったし、華奢だったから簡単に飛ばされた。倒れ込んだオレを他の三人が睨んでそのまま帰って行ったけど、そん時オレバランス崩して手首にヒビ入ったんだ。

泣きたかったよな。せっかく推薦もらえてたのに怪我治るまではバスケできないし、治っても何か感覚に違和感あって今までみたいなプレー出来ないし。もちろん推薦は取り消し。だって壊れたガラクタなんていらねぇだろうし。

あ、今はちゃんと完治して違和感もなくなってる。たまーに寒くなると痛むくらいで特に支障はねぇよ。……どーでもいいか、オレの怪我なんて。

木吉のことはさ、故意じゃなかったんだろうなって思ってたから少し恨みはしたけど潰そうなんて思ってなかった。

うん、ちゃんとその後にオレの地雷きっちり踏み抜いてくれやがったから壊した。テツヤは分かってるよな、オレの地雷。勿論妹のこと。

妹はさちょっとトラブルに巻き込まれて中三の時もうバスケができなかった。そりゃ女バスで有名な選手だったから木吉も妹の引退を知ってたんだ。

インハイのあの時な、始まる前に会っててそん時あいつ何言ったと思う?

よかったな妹が壊れてくれて。もうバスケをしないならお前が劣等感を抱くことはないだろう?見ていて痛々しかった。よかった、バスケ辞めてくれて。そういえばお前も骨折してたんだっけ?兄妹で辞めてればもう泣くことはないんじゃないか?″

辞めたくない、もっとバスケがしたいって泣いた妹を馬鹿にされた。それを聞いた時、頭ん中真っ白になった。どうして何も知らないくせに妹を侮辱するんだ?天才なら何言ってもいいのか?目の前のやつを壊せば同じになるのか?

元々あいつの身体はガタがきかけてて壊すのは簡単だった。ちょっと衝撃を与えてやればもうおしまい。罪悪感なんてない。だって天才も凡才も壊れりゃただのガラクタなんだ。壊れたガラクタになんて興味も湧くはずがないだろ。

それに味をしめたわけじゃないから木吉を壊したらやめにしようかと思ってた。お前らの知ってる通りラフプレーは続いたけどな。


大前提としてオレの行動理由には妹がいる。シスコン?知ってる。あの可愛さ前にしたらシスコンにならざるを得ないから。一に妹、二に幼馴染、三四が妹の親友ズで、五は霧崎のチームメイトってぐらいの優先順位だから。

その妹がさ、キセキの世代の馬鹿どものせいで生死をさまよった。詳しくは言いたくねぇし、知らなくてもいい。ギリギリその時は命は取り止めたけどもう殆ど息してるのがやっとってくらいだった。生きてるのが不思議なくらい、ボロボロだった。

なんで妹を傷つけた奴は楽しそうにバスケをしてて、妹は生きてるのか死んでるのか分かんねぇ状態なんだ?ただ妹はバスケが好きなだけだったのに。

すぅって頭が冷えてく感覚がした。全部壊したらいいじゃねぇの?って。多分今までのオレなら怖くて怖くてできなかったけど、そん時は変なスイッチ入ってダメだった。

ラフプレーの罪悪感なんて感じない、一人壊しちまえばもう全部一緒だろ。妹がバスケをできないならオレだってバスケをやる意味なんてない。バスケが妹を壊したのならオレは、俺はバスケなんて大嫌いだ。

全部壊して、壊して……そうしたら、また妹は目を覚ましてくれる。笑って一緒にバスケができる。

そうして出来たのがラフプレー主体のチームの悪童。瀬戸がいたから蜘蛛の巣も使えたけど俺としては選手を壊すためのチームって感じかな。ターゲットは過去、現在録でもないことやってるやつって決めてる。誠凛は木吉がいるから候補外のやつも攻撃したけど。


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