悪童が生まれた日


「「あ」」

東京という大都会の中、決して距離の近くない人間二人が出会うのはどれほどの確率だろうか。花宮の優秀な頭は簡単にそれを弾き出すけれど今大切なのはそれではない。出会った人物が自分にとっての天敵。そしてそれが複数ともなれば思わず走り出したって咎められることはないだろう。

うんそうだ、俺は何も見てない。

くるりと踵を返したところでがっつり肩を掴まれた。無視して進もうとすれば決して優しくはない力で肩を握られる。耐えきれない痛みでもないが逃げられる気がしない。無駄な労力を使うくらいなら大人しくしていた方がマシ。

「なんて言うかバァカ!!離せばか、ばか!」
「真さん驚きすぎて幼くなってますよ。ほら深呼吸」
「お前が離してくれればすぐに落ち着いてやるよ!なに、なんで誠凛大集合してやがんの!?」
「お休みなのでこちらの公園にあるストバスの大会に出てたんですよ。因みにこの四人以外は用事があるそうで大会後にすぐ帰りましたが」

じろりとこちらを睨む日向、伊月、火神。プルプルチワワのように震える三白眼の少年(ベンチにいたのは知ってるけど名前がわからない)ついでに女監督。正直月がいなくてよかったと思う。いたら多分、いや絶対何もしなくても一発は殴られてた。

テツヤはほわほわと嬉しそうに花を飛ばすけど他は大小差はあれど不快感をあらわにしていてヘタレな俺はもう限界。可愛い妹の親友の頼みでも早く帰りたい。


「テメェ花宮、黒子から離れろ!」
「うるせぇばか!テツヤはいい加減離れろ、折角のオフに俺に構うなぁっ!」
「だってオフじゃないと真さんかまってくれないじゃないですか。祥吾くんも優花さんも和成くんも翔一さんもお忙しいですけど、真さんは特にお忙しいんですから出会ったらくっつかないと!」
「おい、黒子こいつが木吉先輩に何やったか覚えてねぇ訳じゃねぇだろ!なんでこいつなんか!」
「なんかとはなんですか。真さんは僕らの最愛の親友の兄ですよ。それに木吉先輩の足のことなら先輩の自業自得なんですからわざわざ僕らが口を出すこと自体間違いです……!?」

うわぁぁぁぁあと声に出さず叫んでいればテツヤがなんか10番くんにさらりと毒を吐く。

それあかんやつ、地雷ぃぃぃいい!

そうは思いながらもヘタレな俺は敵意の視線に晒されはくはくと、声にならない声をあげるだけ。そんな間にテツヤはブチ切れた10番くんに掴まれて宙に浮く。まぁそんなことすれば俺の首に絡みつくテツヤの腕が持ち上げられて首が締まるわけでして……。

「ぐふ……っ」
「ちょ、火神くん!真さんの首がしまってます!下ろしてください!」
「お前が手を離せばいいだけだろ!」
「嫌ですよ、真さん成分は滅多に摂取できないんですから!」


「お前らいい加減にしろぉぉおおおっ!」
「ほら火神は黒子降ろしてあげて。降旗、悪いけど黒子の荷物拾ってあげてくれる?ねぇ花宮、折角のオフに悪いんだけどちょぉっと俺らに付き合ってくれる?」

俺の首を締めながらきゃんきゃん喧嘩するテツヤと10番くん。それに痺れを切らした眼鏡くんの大声と爽やかくんの眼の笑ってない笑顔。疑問符は疑問符としての役割は果たしておらず『来るよな?んでちゃんと説明するよな?来なけりゃ七瀬呼んじゃうよ?嫌でしょ』みたいな脅しが堂々と込められていた。月が来るとかやめてくれ。俺まだ死にたくない。

「……遊んでやるから離れろテツヤ」
「本当ですか?んんなわけねぇだろバァカはなしですよ?嘘ついたら月先輩呼びますよ?」
「だからなんでお前らはすぐに月を呼びたがるんだよ!……別に予定なんざなかったし、たまにはお前に構ってやってもいいと思っただけだ」
「ツンデレktkr!」

だから温度差!



***
眼が古橋レベルで死んでる爽やかくんに先導されて着いたのはマジバ。まぁ懐が暖かいと言えない学生が集まるなら妥当か。正直ジャンクフードの安っぽい脂っこさは苦手な部類に入るが、文句は言えない。つーかテツヤがここのバニラシェイク大好物だし。

昼時を少し過ぎた辺りだからか客はまばらで、なんとか6人掛けのテーブルを確保できた。普段の部活生活ではチビに分類される俺たち(ただし10番くんは除く。縮めばか)だが平均身長は越してるし、悪目立ちする。不躾な他人の視線に晒されながらもテツヤがバニラシェイクを啜って笑ってるのを見るとどうでもよくなるんだから俺は現金だな。


「お前そんなに食べんのかよ……」
「うっへぇ!んぐ、てめえが少なすぎるんだよ。だからひょろっひょろなんだ、肉食え肉」
「真さんは少食ですからね。シェイク飲みます?」
「んぁ、一口くれ」

「ほのぼのしてるとこ悪いけど、うちのキャプテンの血管が切れそうだから本題に入っていい?」

「「大変申し訳ありませんでした!!」」
「すんません!」


話したくなくて逃げてたけどもう無理だこれ。

「……別に話すのはいいけど、木吉のイメージ崩れるぞ」
「僕もそう思います。でもあんな人のせいで真さんが悪く言われることは耐えられません」
「でもラフプレーしたのは事実だ」
「理由があります」

「理由があってもラフプレーしていいわけじゃねぇだろうが!」
「日向……。はぁ、どっちが悪だとか俺には分かんないよ。だって俺らからしたら木吉が、仲間が理不尽にラフプレーで選手生命を絶たれた。それを指示したのがお前。どんな理由があったかなんて知るわけないだろ」

だから話して。そう静かに言う爽やかくんはこの場にいる誰より冷静らしい。そうは言ってもこのイイ子ちゃん集団の中では短気っぽいけどな。多分眼鏡くんが直情型だから見た目落ち着いて見えるんだろうな。

「あー、別に俺は勘違いされようがどうでもいい……けど」
「うん、これは俺らの気が済まないから言えっていうオネガイだよ。断ってもいいよ。それなら黒子や七瀬に聞くだけだから」
「先に言っとくぞ。俺は被害者ぶるつもりもなけりゃお前らに同情されようとも思ってねぇ。この話を聞いたあとお前らが木吉をどう思おうがどうでもいいから」

そう前置きして話し出す。オレが死んだ日を、俺が生まれた日を。

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