海常のエースさま?


「な、なっ!?」
「うわ、豪快にやったな」
「唯一の女子力要素を切り捨てるなんて…っ」

教室に戻ると、あたしの髪に一気に3人の目が集中した。幸は青ざめ、小堀は苦笑い、森山は案外この髪を気に入ってたらしいので落ち込み気味に。面白いくらい三者三様の反応を返してくれた。


でもあたしは言わなきゃいけない。

「ごめん、切っちゃった。お前らの夢、叶えるまで切るつもりなかったんだけど」

それだけ言うと別に悲しくもないのに瞳に涙の膜が張るのを感じる。だめだ、ここで泣くな。

あたしが髪を伸ばし始めたきっかけは幸の一言。高校で俺がレギュラーになって海常が優勝するまで髪を切らないでって。それがいつしか小堀と森山にばれて、あたしら三年生の秘密の願掛けだったのを今回あたしの勝手で切ってしまった。もちろんそれも辛いけど、この3人はきっとあたしを責めない。むしろよくやったなんて笑うんだ。それを想像したら言葉には言い表せないぐらい辛くて。


勝手に流れる涙を止める術をあたしは知らない。涙も嗚咽も、こんなところで出していいもんじゃねぇだろ、なんて頭のどこかで冷静なあたしが言うけど止められねぇもんは仕方ねぇだろ。


3人に手を引かれて来たのはさっきとはまた違う空き教室。


「なにがあったかは聞かなくてもいいかな?」
「どうせ一ノ瀬は教えてくれないしなー。つか、笠松も落ち着け。相変わらず一ノ瀬のことになったらポンコツだなぁ」
「だ、って!柚葉の綺麗な髪がっ、泣いて!」


わんわん泣いて、少し落ち着いてやっと話せる状態。泣きすぎたせいで逆になんか冷静になった。なんであたしあんなに泣いたんだ。三年生にもなって髪を切ったくらいで泣くなんて恥ずかしい。


「…詳しくは、言わない。けど、多分あたしはすげぇ悔しかったんだと思う。あたしは、あいつのこと殺したいくらい大っ嫌いだけど、それでもうちのエースだから。嫌いだけど、大っ嫌いだけど、頑張ってるのを知ってるんだ。それを馬鹿だとか恥ずかしいとか、あいつを馬鹿にするような発言ばっかされてキレた。でもそいつらに手は出せなかったから思わず…」


あたしは知ってる。あの試合に負けた日からあいつが変わったことを。ガムシャラに努力して、笑うあいつの綺麗な顔を。バスケが心底楽しいってやっと思い出せたような顔を、あたしは見てきた。少し前のバスケなんてつまらない、そう見下してきたあいつがやっと、笑えるようになったんだ。なのに、それを憧れなんかで邪魔をするのは許せない。

「ま、髪を切っちゃったのは残念だけどさ一ノ瀬に怪我がなくてよかったよ。ほら、森山後でハサミもってきてあげるから整えてあげなよ」
「ふっ、俺の手にかかればそれくらい簡単さ!ショートももちろん似合うからな、安心しろよ一ノ瀬」
「失敗したらシバく。柚葉、泣き止んだ?」
「おう。つか、あたしより幸のほうが泣きそうじゃん。ぎゅーってしてやるから泣きやめぇ」
「ぎゅー…」

あたしよりわずかに小さい幸の体を抱きしめる。森山が悔しそうに、小堀が微笑ましそうに見てるけど気にしない。だってあたしは幸が一番大事だし?

詳しく聞いてこないこいつらもあたしの発言で察してると思う。だけどあたしは何もしない。

「…やり過ぎるなよ」
「んー、それはそいつら次第かな?ねっ、森山」
「女性に手をあげることは避けたいが、見も知らぬ女性より友人の方が大事なんでな。上手くやるさ」


あーぁ、幸の耳塞いでてよかった。え、ナニをしたかって?そんなもんあたしが知るわけないだろ。ただ、バスケ部の見学に来てた女子がいなくなって、静かに部活ができるようになったってことだけは教えてやるよ。ついでに黄瀬が森山と小堀を見て数日間怯えてたな。

ナニを見たんだろうなぁ?

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