首のない愛を探しています

「なまえ、来週の土曜の夜空けとけ」


なんて俺様彼氏の政宗の発言があったのはちょうど一週間前の出来事。今日がその約束の土曜日である。

しかしあれから何故か一切の連絡はない。結構マメな性格の政宗はたとえ忙しくても電話のひとつはいつもくれたのに。こんなことは初めてだ。流石にお互い成人して、社会人として時間が大学のころより自由に出来ないことは分かってる。まして政宗なんかは親から継いだ会社を経営する若社長という立場なのだから尚更である。

『もう、6時かぁ…』

時計の短針はぴったり6を指していた。どこかに出かけるのだろうか?というか夜って何時から夜なんだ?一応服装はデニムにTシャツ。まあ夜だし、見えないし、政宗だし。

ピンポーン―――…

まだかまだかとゴロゴロしていると玄関のチャイムが聞こえた。やっと来たか、時間設定をちゃんとしろって文句言ってやろう。

『政宗っ!あんたね、…え?』

バタンッと勢いよく玄関のドアを開けた。が、目の前の政宗に最後まで文句を言ってやれなかった。

「迎えに来たぜ、honey」

見慣れない黒いスーツを着崩している政宗は格好良く着こなしていて、言うとアレだけどホストみたい。しかも政宗の後ろには愛車がいつの間にか…黒のベンツに変わっていた。

『…えーっと、何これ?』

「Hum…」

いまいち状況についていけない。取り敢えず分かったことは…

『き、着替えて…』

「Don't worry、このままでいい」

『へ?』

言うや否や政宗はそのまま私の腕を取って車に乗り込んだ。しばらく無言で運転する政宗。

『ね、ねえ…どこ行くの?』

「secret、これで我慢してな」

『っん!』

耐え切れなくなって沈黙を破った私に政宗から啄むキスが降る。

『っま、んっ前…信号!』

「まだ赤だ」

容赦ない政宗のキスは信号が青と同時に止んだ。久しぶりの感覚に息が自然と上がる。政宗をじとーっと、睨んでやっても口角を上げて笑みを浮かべるだけ。逆にいつもと違う雰囲気がある運転する政宗横顔に私の方が先に視線を反らしてしまった。

着いたぜ、という政宗の声を合図に車から降りる。そこには高級そうな雰囲気満載のお店。

「ほら、行くぞ」

隣を歩く私はなんと言うか滑稽でしかない。だってデニムにTシャツだよ?激しくこの場から消えたい。

「こいつに似合うものを、」

「はい、かしこまりました」

『ちょっ、』

政宗はそれだけ言って私を店員に引き渡した。あれよあれよと目の前に用意されたドレスに着替えていく。一生に一度も着ないようなドレスもあり息を呑む。メイクやら髪型やら私はただじっとして解放されるのを待った。

「まあ、素敵です」

『う、そ…』

鏡に映った私は誰?っていうか別人だった。青のシフォンドレスは腰の辺りにあるリボンが可愛らしさを強調していて髪を上げてメイクもナチュラルに仕上がっていた。

店員さん達に背中を押されつつ、店内を物色している政宗に近づいた。コツコツとヒールの音が響く。気付いた政宗は私を見て目を見開いた。

「なまえ、か?」

『う、うん』

「っ、綺麗だ」

政宗が口元に手を当てて呟いた言葉に嬉しすぎて俯いた。店の人にお礼を言ってまた車で移動。もちろんドレスはこのままで。お金に関しては政宗がニヒル笑うものだから考えないことにした。


目的地着いたのは8時回った頃だった。少し遅くなったがdinnerだ。と降り立ったのはまたも超がつきそうな程の高級ホテルだ。

ほら、と慣れないものの政宗の腕をとってレストランに入っていく。案内された席につくと政宗が椅子を引いてくれた。驚きながらもありがとう、と席に座った。

運ばれてくる料理は豪華で、私が一生に一度食べることがあるか…いや、決してないものばかり。政宗と楽しく談笑しながらの食事はあっという間だった。

「…お前に見せたいものがある」

お腹が満たされ満足な私に政宗はこっちだ、とレストランを後にした。



『うわぁ!綺麗!』

連れて来られたのはなんと最上階のスイートルームだった。目の前に広がるキラキラとした夜景に目を奪われる。ガラスにくっついていた私を包むように政宗は抱きしめた。

「気に入ったか?」

『うん、すごく素敵』

「なら良かったぜ」

『…ねぇ、いきなりどうしたの?』


さっきからずっと気になっていたことだ。久々に会うにしても今日は豪華すぎる。

「今日が何の日か分かんねぇか?」

『?…あっ、私の…誕生日?』
すっかり忘れていた。ここ最近は余裕がなかったからか自分のことに関心がなかったのだ。

「ったく…Happy birthday、なまえ」

『あり、がとう…』

「それと、」

私の肩を掴んで政宗と向き合う形になる。ふっ、と目を閉じれば甘い甘いキスの雨が降る。


『―――…え?』


キスの合間に感じた左手の違和感。
おそるおそる確認すると左手薬指に

「ま、政宗…これ、」

心なしか声が震えている。
そりゃそうだ、だって…


『返事はYesしかいらない』

「っ、」


キラリと今の私には夜景に負けない輝きを放つ左手薬指のシンプルなダイヤの指輪。



『結婚しよう、なまえ』



『っふ、う…っうん!』


視界がぼやけて政宗の顔がよく見えない。泣きすぎだ、と政宗に笑いながら言われるほど私は泣きじゃくった。


「お前だけを愛してる、なまえ」


どこまでも愛おしい貴方に、
また私は泣いた。



(お前だけに愛を誓おう)







 まおら様、企画参加感謝致します
素敵な作品ありがとうございました。



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -