やめてよ、そんな目で見るの


目は口ほどにものを言う。
誰が言い出したのか知らないが、そんなことはないとあたしは思っていた。

つる中将の部下として、あたしには海軍上層部の方々とお会いする機会が多々あった。
そして思うのだ。
皆一様に表情筋(主に口回り)が固い。

つまり感情を表に出さないーー感情を隠せる人ばかりなのだ。

そんな人たちの目がものを語ることなんてない。
だからあたしは先の言葉を信じていなかった。


「フフッ、会いたかったぜェ!マイペット」


そしてこの男もそうだ。

あたしをマイペットとぬかすふざけた口は常につり上がり、目は派手なサングラスで隠れている。
偽りのスマイルを浮かべているこの男の言いたいことなんてわかりはしないのだ。


「…また来たの?」
「フフフフフッ、つれねェなァ!」


背中に回された腕と顎を掴む手。
無理やり上を向かされても、背の高いドフラミンゴの顔はずいぶんと遠い。


「今日は素直じゃねェか!」
「…抵抗しても無意味だって悟ったの」


とか言いつつもいつも抵抗しているわけだが、今日はそんな気がおきなかった。

正直に白状すれば、ここ数日躰が重い。
でもそんな甘ったれた自己管理をしているなんて誰にもばれたくなくて。

特にこの男にばれたら最期だ。


「…忙しいの。離して」
「フフフフフフッ、…却下だ」
「ひっ!?」


なんともだらしのない悲鳴をあげてしまったのは、この鳥のせいだ。
いとも簡単にあたしの躰を抱え、長い足でズカズカ歩き始めた。

その方角は軍宅。
つまり、あたしの部屋に向かっているらしい。


「降ろせ、この…っ」
「病人は大人しくしとけ」
「なん、で…!」
「フフッ、おれにバレねェとでも思ってんのかァ?」


まさに思っていた。
同室の友人にも同僚にも先輩にも後輩にも、そしてつる中将にもばれていないのだ。
用心はしていたが、正直わかるはずがないと思っていた。

この男は本当に侮れない。
悔しくて下唇を噛みしめていたら、ぺろりと上唇を舐められた。


「なにしてっ」
「うつせよ、おれに」


おでことおでこがくっつく距離でそう囁かれた。
口元に笑みはない。
そしてあまりに近いから、派手なサングラスは透けて見える。


「…バカにはうつらないの、バカ」
「フッフッフッ、躾がなってねェペットだなァ!」


ぷいっと顔を背けたくなったけど、やっぱりやめたい。
だってこの男のこんな目、なかなか見れるものではないから。


「おれに見惚れてんのか、あァ?」
「誰があんたに見惚れるか。…頭がぼーっとしてるのは、確かだけど」


そうだ、あたしの頭は今正常に働いていない。
だからだ。
サングラスの奥の瞳が不安そうにこちらを見つめてきている、なんて錯覚したのは。


「フフフフフフッ、そういうことにしておいてやる!…でもな、」


目は口ほどにモノを言うもんだ。

耳元で囁かれた言葉にあたしは瞠目してしまった。
















やめてよ、そんな目で見るの
(本気であたしの心配してたの?なんて)
(思わせないでよ、お願いだから)







 ヨシキ様、企画参加感謝致します
素敵な作品ありがとうございました。




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