「おやおや、これは真選組のなまえさん、お勤めご苦労様です。」 いつものように市中巡回をサボってなまえがドーナツを食べていると背後から声がした。驚いて振り向けば見廻組の佐々木異三郎が眠そうな目をこちらに向けていた。 なまえは慌てて身構える。無意識に刀に手がいってしまうのが我ながら悲しい。だって彼女は彼に片想いしているから。 お務めご苦労様とか言いながらも彼はなまえがサボっていることを知っていたのだろう。皮肉が上手い。 「そう身構えないで下さい。こんな街中で殺し合いをしては両極の首が飛びますよ。」 騒ぎを起こせば見廻組も真選組も咎められるということだろう。ただでさえいがみあった緊張感のある状態なのに悪化させてはまずい。 なまえは刀から手を離しながらどこかホッとする。それは両極の関係を悪化させないことと、好きな人に刃を向けないことと両方だった。 「見廻組局長が私なんかに何の用でしょうか?」 彼のことは好きだが、真選組の敵ということもあり警戒心を解くことができずに、尋ねるなまえ。そんな彼女に彼は淡々と答える。 「先程、あちらで土方さんと出くわしましてね。貴女がいなくて大層怒っていらっしゃいましたよ。」 うげ!出くわしたのかこの二人!しかも土方が怒っていただと!?よくそんな状況で斬りあいにならなかったものだ。 なまえは冷や汗をかきながら、土方の鬼の形相を思い浮かべてさらに身を震わす。帰ったら殺されるかもしれない。 「どうしました?顔色が悪いですよ?良ければ屯所まで送りましょうか?」 突然、そんなことを異三郎が言い出したので、なまえは驚いて彼を凝視した。 「送る?貴方が私を屯所まで?」 「ええ。」 なまえの質問に即答した彼に、彼女は更に混乱してしまう。敵が真選組を助けるなんて。そんな不安を抱えている彼女に気づいたのか、異三郎は弁解するように言う。 「勘違いしないで下さい。確かに私と貴方は同士ではありませんが、敵というわけでもありません。もっと上手く付き合えると思いますよ。」 付き合う!?反応したなまえが顔を赤くしたが、勿論そういう意味ではないことくらい知っている。 「というわけで、私とメル友になりなさい。」 え?メル友?何それ? 突然、見廻組局長が言うとは思えない単語が出てきて焦ってしまうなまえ。そんな彼女に彼は携帯を差し出す。 「持っていないなら、これを差し上げます。メールして下さいね。」 ピッピッと機械音を鳴らしながら携帯を操作する異三郎。罠かもしれないと疑いつつも好きな人からのプレゼントを受け取ってしまうなまえ。 「あと、そのドーナツを私に頂けないでしょうか?」 「え?エリート様の口には合わないと思いますよ。」 なまえが手にしているドーナツの箱を見つめながら言うと、彼は携帯を閉じて口を開く。 「信女の大好物ですからね。」 あぁ、あの娘か。なまえの気持ちは少しだけ沈む。呼び捨てとかいいな、信女さん。 「どうぞ。」 箱を差し出せば彼の手は、彼女の腕を掴んだ。当然なまえは驚いてしまうわけで。 「やはり、顔色が悪いですね。屯所まで送りますから私の車まで来なさい。」 意外と優しい人だな。彼の背中を見つめていると心臓がドキドキする。彼に対する気持ちが膨らむ。 だけど、どんなに想っても彼とは結ばれることなどない。 (だけど、私の名前を呼んでくれた。) 顔と名前を覚えていてくれて、おまけに携帯もプレゼントしてくれた。信女のように彼の側にいることはできないけど、どこにいても彼のことを想い続けるだろう。 (好きです、異三郎さん。) 決して口にできない言葉を心の中で呟いた。今日の出来事は土方に言えるわけがない。 すき、言えたらどんなに 海月様、企画参加感謝致します 素敵な作品ありがとうございました。 |