背中に在る爪痕が愛しい

小鳥たちの鳴き声が脳に響き、ゆっくりと瞼を開く。目の前には愛しい女の寝顔。それはもう安心しきった顔で寝ていて、全てを俺に託しているのだと思ったら可愛くてたまらない。
起こさないように静かに桃色の頬に唇を落とした後、湯浴びに行こうとして布団から出ようとした時だった。情事後のだるいものとは違う痛みが背中を走った。けれど、俺はこの痛みの理由を知っている。布団の中に隠れた細い腕を手探りで探し、それを優しく掴む。


「あれ程切れって言ってんのに」


裁縫をするためには少しばかり爪が長い方がいいと言い伸ばしているけれど、この爪が俺の背中に傷を付ける。そうだとしても、人一倍力の弱いこいつが人を傷つけるほど力むなんて余程の事だ。それほどまでに快感に狂っているのだろう。
そう思うとまた一層愛しくなり、胸の奥がどくんと強く脈を打った。俺の心臓がおかしくなったのも全部こいつのせいだ。言葉一つ一つに体が反応するし、常に一緒にいたいと感じる。恋に溺れるなんて、俺もただの男だったのだ。

その時、長い睫毛に象られた瞳がゆっくりと開いた。まだ眠たそうに辺りを見渡した後、俺を見つけると「元親様、おはようございます」寝起き独特ののんびりとした口調で言う。かと思えば、急に顔を赤くし頭まで布団をかぶった。


「おい、何顔隠してんだよ」
「だっ…だって、元親様、お召し物を…」
「今さらなんだよ。昨日だって散々見ただろ?」
「それとこれとは別なのです!」


布団から目元まで出したけれど、それだけでも顔が赤くなっていることが分かる。月日がたってもこいつはこの調子だ。いつまでも生娘のような初々しさがある。いい加減慣れてもいいと思うが、これもまたこいつの愛らしさだと思うとこれはこれで良いと思ってしまう。
そう思うと悪戯心が疼きだし、俺も布団へと潜る。声を上げる前に手で口を塞ぐ。狭い布団の中で密着し、互いの鼓動が伝わって来る。どくんどくんどくん。相変わらずこいつの心臓は早く動く。ゆっくりと口から手を離し、細い腰に手を回す。


「…なぁ」
「ど、どうされましたか?」
「俺の背中、お前のせいで傷だらけなんだけど」


責任取ってくれんの?
耳元で囁けば、細い身体がびくんと揺れた。暗闇の中でも耳まで赤く染まっているのが分かる。すると小さく何かを言ったけれど、聞こえなくて聞き直す。けれど、照れたように声を上げ、結局何を言ったかは教えてくれなかった。




 しゃしゃ様、企画参加感謝致します
素敵な作品ありがとうございました。



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