A secret novel place | ナノ
秋から冬へ(12)

「お邪魔します」
余りに久しぶり過ぎて思わず遠慮がちに敷居を跨ぐ。
虎徹が苦笑していたが、もう二度と来ることができないと覚悟していたバーナビーにとっては懐かしすぎて胸が痛い程だった。
 本当に久しぶりだ虎徹さんのうちは。
これが最後かも知れないから、全部目に焼き付けておこう。
そんな心づもりで室内に入ると、何故か虎徹がこっちに来いと指を差す。
その方向は例の物置で、何か物置に見せたいものがあるのかなと素直についていくと虎徹が物置のドアを開けてお前も入れと促して来た。
「何があるんです? ――…………」
 そのままバーナビーは絶句。
物置だと思っていたそこは物置ではなく、充分広くて趣味の良い和室に模様替えされていたのだ。
小奇麗なチェストとベッドにもなる折り畳みリクライニングチェア、サイドテーブルと収納は襖で隔てられた押し入れ風に改造されており、布団が二組入っているという。奥には布団乾燥機があるけどそれは布団をこのフラットで干すことができないからだと虎徹が説明した。
カーテンは落ち着いたベージュで壁は漆喰で白くしたという。何故ならプロジェクターで壁にテレビやPCの画面を映し出す仕様だからだ。
「お前んちの大きさは無理だけどこのぐらいなら充分映画観れるだろ」
 壁をこんこんと左拳で叩き、色々と説明していた虎徹はバーナビーを振り返った。
「遅くなったけど誕生日プレゼント。ロフトで一緒に寝るの狭いしなんとかなんねえかなって前から考えてて、それで昔の寝室を復活させることにした。喧嘩した時に互いにクールダウンできるように奥さんと旦那さんで一部屋ずつあるのが理想ですよって間取り薦められたけどさ、前の喧嘩でお前ともそうだったって思い知ったし。どこかでお前の部屋を作ろうと思ってたんだけどさ、いい機会だから作ってみた。どう?」
 バーナビーは胸がいっぱいになってしまい、ただ口を押えて嗚咽が漏れないようにするのが精一杯だった。
虎徹の方はというとこの反応は想定外だったらしく、慌てたように「気に入らないか?」と聞いてきた。
 いいえ、いいえ。
「ちょっと、あり得ないほど感動してしまって――」
「バニー」
 泣くなよ、なんでだよ、そんなに泣くなよ……。
そういって虎徹が抱きしめてくるものだから、バーナビーも彼を抱きしめる。そうしてその身体の温かさと重みを腕一杯に感じ取ってまた泣けた。
「こんなプレゼントでしかも遅くなってごめんな」
 ありきたりで、チープでさ。何百回も考えたんだけど他に思いつかなかったんだ。
「違うそうじゃない。本当にすごく嬉しいんです。虎徹さん、12月24日は僕が家族を――帰る場所を失った日だったんです。父と母を。長いことずっと僕にとって24日は喪失の象徴でもあったんです。でも貴方と出会って僕はこの日から歩き出せた。この日を喪失の象徴であることに決別できたんです。だからもし貴方が僕の手を放して違う道を行くというのなら、それはそれで受け入れるつもりでした。ずっと僕はあなたにとって僕は重荷なのだと、思い込みではなくそう知っていたから」
「なんでそんな馬鹿なことを考えたんだ?」
 虎徹が苦笑気味にそういうので、貴方が自分を家に入れなくなって僕の家でしか会おうとしなくなったこと、折り紙先輩を筆頭に他のヒーローたちとの合同企画を積極的に行うようになったこと、何もかもが僕を独り立ちさせて、自分自身も離れていこうとしている、これはバディ解消のための布石なのだとそう思い込んでいたから、と素直に告白した。
「なんで俺がお前から離れようとしてるって思ったんだ?」
 このサプライズ企画だって、他の面子が入れ代わり立ち代わり頑張ってくれたんだぜ? 俺はインテリアコーディネーターの才能皆無みたいでさ、部屋の色味とかさ、全体の色調なんかは全部ファイヤーエンブレムが考えてくれたんだ。スカイハイには家具を選んでもらった。俺はお前らの好みがよくわかんないからな。その点スカイハイのインテリアセンスは俺らの面子の中じゃ一番バーナビーに近いだろってこれはバイソンの提案な。バイソンは俺と一緒で主に肉体労働。ここの壁とか床とかきれいにしたの俺とバイソンだから。キッドとローズは照明とカーテン担当。細かい小物なんかはファイヤーエンブレムと一緒に仕入れてくれたんだ。それと折紙が多分一番大変だった。この部屋の畳さあ、オリエンタルフェアん時、日本からヘリペリデスファイナンスが空輸した本物なんだぜ? 展示会の時に茶室あっただろ? お茶の体験教室のさ。あの時使った畳計算してさ、この部屋分だけ余分に手配してあってさ、展示会が終わってミュージアムのほうに移動するときに12畳分だけ貰えるように交渉したんだ。まあこれがだから報酬。
「お前俺の実家来たとき、畳の部屋に感動してたからさ。じゃそれ入れてやろうって思ったの。友恵も畳の部屋がほしいって言ってたのを思い出してさ。あいつの時にはやってやれなかったから」
「僕は――信じられなかった。そんな風に僕のことを思ってくれているだなんて、ましてやみんながこんな風に驚かせるために何かしてくれるなんて――」
「いや俺、結構初めのころからお前にはサプライズしてたと思うんだけど?!」
 そうじゃない、そうじゃなくて。
ああ、違う、虎徹さんのことやみんなが信じられなかったんじゃなくて、クリスマスに素敵なことが起こるってことがなんです。
「だってこの日は――、いつでもこの日の現実は僕にとって優しいものではなかったから」
「バニー……」
いつでも辛かった。
両親を失った日、養父への信頼を失った日、あなたを失うところだった日、あなたがここからいなくなった日、あなたが僕に内緒でヒーローに復帰していたと知った日。
「……」
 そうだよな、ごめん。
虎徹はぎゅっと自分の胸にバーナビーの顔を押し付けて、頭ごと抱え込むように抱きしめる。
 ずっと用意してやれなくてごめんな、勇気がなくてごめん、お前を許す勇気よりお前に帰る場所を作る勇気を持つのが大変だったんだ。
お前が望んでたもの、ただいまって言って堂々と帰れる場所だって判ってたのに。
 俺でいいんだろうか、俺がお前の帰る場所でいいんだろうか。お前が俺に謝りたいって言う度に怖かったんだ。もうお前に俺は必要ないって、どこかに行ってしまいそうで。だから踏ん切りつけるのにこれだけかかってしまった。
 一年も待たせたよ、お前が俺に謝ってくれてから。本当に待たせてごめんな。

「おかえり、バニー……」
「ただいま」
 虎徹さん。


この日バーナビー・ブルックスJrはただいまといって帰ってきていい家を手に入れた。
 お帰りと言ってくれる本当の家族を。

 52万5600分、ここから始まりここに戻った。
何度も何度も繰り返す季節、代り映えのない繰り返しだと思っていたけれどそうじゃない。

貴方がいるから、貴方がそこに居てくれるから。春夏秋冬巡る季節、52万5600分 これからもまた一緒に歩んで行こう。


 そしてまたここに戻ろう。



 おかえり、バニー。






TIGER&BUNNY
【52万5600分】秋から冬へ Seasons Of Love
CHARTREUSE.M
The work in the 2014-2021 fiscal year.

 Thank you.



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