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パシフィック・リム  <11>裂け目へ(2)


 「ワイルド・タイガー」と「ルナティック・ブルー」の両機体は、マリアナ海溝まで20km付近の海上までロシアの空母によって運ばれそこから輸送用のヘリで牽引されてからチャレンジャー海淵1km手前で海へと投下された。
「「ワイルド・タイガー」、「ルナティック・ブルー」両機体システム正常 オールグリーン。ドリフト開始します」
 二つの機体をモニターしていた指令本部オペレーターがそう両機に伝える。
『ブレイン・ハンドシェイクを開始します』
 「ワイルド・タイガー」の音声ガイドがそう二人に伝え、元からスタンバイしていた二人は直ぐ様意識を繋ぎ一つとなる。
『全ポート閉鎖、潜水準備OK。パイロットシンクロナイズ100%』
 「ワイルド・タイガー」が滑らかに歩を進めていくとゆっくりと潜水していく。
先に歩いていた「ルナティック・ブルー」の潜水していく様がすぐ手前に見えたが、水没して虎徹は思った。
 こりゃ難儀だ、1センチ先も見えねー。
歩いていく間も指令本部からの報告は続いていた。
「怪獣二体のうち一体はグアム近海で弧を描くように旋回中です。もう一体はポータル上部で微動だにせず。コードネームは「スカナー」と「ライジュウ」裂け目まで八百mです」
「了解」
 バーナビーが潜水用に新たに取り付けられたパネルを操作。
有視界活動からソナーによる対探知活動に切り替えると報告、ナビゲーションを起動した。
『ナビゲーション起動します』
 するとそのまま視神経に直結して戻ってくるソナーによる感知情報。
いきなりクリアになった視界に虎徹は目を瞬きした。
「こりゃあ凄ぇな、目で見てるみたいだ。何が変わったんだこれ? ホントに目で見るのも音で見るのも変わんないんだなあ」
「そういうのが事実として体感できるこのドリフトシステムは、怪獣がこなければ開発されなかった。皮肉なもんですね」
「そーだな。この後があったら、ドリフトシステムについてイェーガー動かすだけではなく、色々研究を進めるといいかもな。結構凄いシステムなんだよなこれ」
「目の不自由な人には画期的なシステムだと思います。こういう応用いっぱい効くんだろうな、勿体ない」
「何? パイロット以外にやりたい事見つかった?」
「元々僕研究者でもあるんですけど」
 バーナビーが苦笑すると虎徹はそうだったと笑った。
「気を付けろ、「ワイルド・タイガー」ライジュウが横を通過したぞ!」
「まじか」
 本部からの警告に虎徹が「ええ?!」と言ってきょろきょろとあたりを伺う。
だが普通にクリアに見えているのに何の気配も感じない。
どういうことだと言えば、右側を見ていたバーナビーが、今までの怪獣と動きが違う! と呟いた。
「動きがあり得ないぐらい早いんだ! なんだろう・・・・・・なんか規格が違う怪獣な気がする」
「規格が違うってなんだよ!」
 虎徹がそうバーナビーに聞くと、「水中戦闘特化型?」と応えた。
「どゆこと?」
「ピットフォール作戦を潰すために調整された怪獣とか」
「嘘だろ」
 そんな不安な会話をしているのを、指令本部でオリガもまた聞いていた。
レジェンドがパイロットとして出て行った今、全体の統括をするのはオリガの役目だ。
彼女は二機に冷静に伝えた。
「なんでもいい、いまだ攻撃してくる気配がないのなら好都合だ。そのまま進め、裂け目まで後百m」
「了解」
 進んでそして幾許もしないうちに目の前にじっと自分たちを見つめている怪獣の影。
「スカナー」の方かと虎徹は思う。
これまた重機を思わせるようなどでかい怪物だこと。
これを倒すのは難儀そうだ、と思うとバーナビーが脳裏で「最悪倒さなくても、腕一本拝借できればそれで「ルナティック・ブルー」はポータルを通過できる」という。
「成程、賢いなバニーちゃん」
「まあ上手くやりましょう。腕一本ねじ切って、先に「ルナティック・ブルー」に渡すってのが一番いいのかな」
「ポータルに入れればこっちの勝ちだしな。俺たちは二体を倒すことだけ考えてればいい――」
「そう僕らの役割はこの怪獣の注意をこちらに引き付ける事なんですから」
 例え死んでも。
「いいだろ、その作戦で行こうぜ」
 虎徹も了承し、「ルナティック・ブルー」が一足先に、裂け目の近くの段差まで取り降りようとしたその時、突然周りを旋回していた「ライジュウ」と「スカナー」両者の動きが止まった。
 指令本部でもその様子がはっきりとモニターに出ており、オペレーターが戸惑った声を上げる。
「スカナーとライジュウの動きが止まりました」
「止まった?」とオリガ。
「はい。ほぼ静止しています」
 何故だ?
オリガは一瞬躊躇したが、「ルナティック・ブルー」に止まったのならチャンスだろう、飛び降りろと促した。
だがレジェンドは叫んだ。
「何かが奇怪しい! 怪獣が止まった――何の意味があるんだ! 何故止まった!」
「いいから二機とも今すぐジャンプするんだ! チャンスともいえるだろう?!」
 オリガが焦れてそう叫ぶ。
だが、その時。
「裂け目に動きがあります! ポ、ポータルに三体目が出現! 大変です、三体目が出現!」
 上ずった声でそう報告するオペレーターにオリガは向き直り、またメインパネルを覗き込む。
確かにそこには怪獣が出現するサインが。
 そしてそこに表示される暫定ではあるが予想カテゴリーの数字に目を見開くのだ。
一瞬言葉を失っていたが我に返り、オリガは通信マイクを掴んで言う。
「大変だ、裂け目から三体目の怪獣が出てくる! 「ルナティック・ブルー」、「ワイルド・タイガー」聞けカテゴリー5だ、初めて現れた!」
 カテゴリー5・・・・・・。
報告を聞きながら、うん、判ってる、今見えてるからと虎徹が呆然とそれを見上げていく。
裂け目から最初出てきたその怪獣の頭はあり得ない程でかかった。
それがずるうっと上に伸びる、伸びるように上がって行って、まだ足が見えない。
どれだけでかいんだ、どれだけ長いんだと虎徹はじろじろと怪獣を見ながらため息をついた。
バーナビーの方も愕然としていたが、頭の中で えーと、全高が百八十mくらいかなあ? と律儀に概算してたのがやけに可笑しかった。
「じゃあ全長はどうよ」
「三百mは超えますね」
「それって確かなのかよ」
「確かです」
 虎徹が嘘だろと突っ込んだ途端、物凄く長い尻尾がゆらゆらと海淵の向こうに三本揺れているのが見えて謝った。
「あ、ごめん、そうだな」
「ええ」
「三体目の怪獣出現。カテゴリーは5。コードネーム「スラターン」」
 オペレーターがそう報告してくる。
虎徹は正しいネーミングセンスだと心の中で妙に納得していた。
多分この怪獣は雌なんだろう。かつてない程みだらな、最低最悪のあばずれだ。
 そう虎徹が思考したのが伝わるわけがないが、その時確かにスラターンは虎徹を見た。
そしてにい、と笑った。



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