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琺瑯質の瞳を持つ乙女(7)


 目的地でイワンはずっとエドワードを待っていた。
エドワードは絶対に嘘をつかない、裏切らない、逃げたりしない。
そう思いながらも一抹の不安に身体が震える。いや逃げても直ぐに捕まえる事はできる。シュテルンビルトから出てしまえば軍や警察が情け容赦なく捕まえにくるし、シュテルンビルトのヒーローは優秀だ。自分がもし捕まえる気が無くても他のヒーローたちに捕まってしまうだろう。一番怖いのはシュテルンビルト外で捕まることだ。この国は概ねN.E.X.T.に寛大だと言われているが、それもこれもシュテルンビルトにおいてだけだ。もしシュテルンビルトから出て捕まったら。
考えただけでも血の気が引いた。エドワードは死刑になってしまうかも知れない。脱走も二度目では情状酌量の余地がなにもない。世界はN.E.X.T.に対して想像以上に厳しく過酷なのだ。
 手を組み合わせてただひたすら待つ。大丈夫、大丈夫だ。僕はエドワードを信じてる。
時間はじりじりと経った。エドワード頼むから早く帰ってきて、僕のところに戻って欲しいと念じる。PDAを立ち上げて時間を時々確認していたが大丈夫まだ15時、18時迄には時間がある。そう思ったときに、すうっと下から土の匂いがした。
巻き上がる砂、その中から現れるのはエドワードだ。
「エドワード!」
「悪ィ」
 その一言しか言わなかったけれど、イワンは安堵した。そして嬉しかった。何処へ行っていたのだと聞くのは容易いが、聞くべきではないとも思った。
彼が自ら話してくれるまでは――。
その後二人は目的地で当初の目的を果たした。
少ししんなりしてしまったけれど花も――目的を果たせてホッとした。
映画もプレイランドも無理だけれど、ファーストフードで食事は出来るぐらいの時間が残った。一応念のためジャスティスタワーの一番近くの店舗を選んだが、単なるハンバーガーとポテト、それにコーヒーがとても美味しかった。
17時半には店を出て二人で連れ立って帰る。エドワードの手が温かい。それをぎゅっと握り締めながらイワンは司法局特殊拘置所の入り口に向かい入って直ぐに刑務所のスタッフに取り囲まれた。
「一体、どういうことですか?!」
 時間ぴったりじゃないですか、まだ17時50分だ、何が起こったんですか?
そう聞くがエドワードは中へ急きたてられていく。
同時にイワン自身もぎゅっと強く肩を掴まれるのが判った。何をするんだろうと躊躇している間に、エドワードもつけられたがイワンにもN.E.X.T.拘束具であるチョーカーを首に巻きつけられる。
「待ってください、どうして僕が?!」 慌てて身を捩り説明を求めると、目の前にユーリ管理官が立っていた。
「記録に不自然な空白があります」
「え?」
「貴方もエドワード・ケディ自身も知らなかったでしょうが、N.E.X.T.犯罪者には身体にトレーサーが埋め込まれているんです。勿論何事も無く刑期を終えれば同じように知らせずに体内から除去するものなのですが。感知の出力は非常に弱くGPSも搭載されていないものですが、近くに司法局のコンピューターDike(ディケ)に登録されている上位端末があればそれを中継して事足りるのです。折紙サイクロン、貴方はエドワード・ケディの逃亡を見逃した。勝手な自由行動を容認しましたね? それともそれは最初から二人の合意だったのですか?」
 鋭く聞かれてイワンは絶句した。
「シュテルンビルトゴールドステージ、シュテルンメダイユ地区にて殺人事件が発生しました。被害者は28歳女性。両眼を刳り貫かれての発見です。死体の遺棄方法など多々今までとは違った杜撰さを感じるところはありますが、本日15時00にシュテルンビルトは秘密裏に非常警戒態勢へと入りました。あなた方には伝えていませんでしたが、司法局には先月からエドワード・ケディに対する投書が幾つも届いています。一通を除いて全て減刑嘆願書なのでそのうちの幾つかはイワン・カレリン、あなたが出したものでしょう? でも問題の一通は違います」
 ユーリは一旦言葉を切り、じっとイワンを見つめた。
それから逡巡するように一度だけ首を振った後、溜息のようにその言葉を吐いた。
「ザントマンは、ブロンズ第三刑務所に居るエドワード・ケディである」
「嘘だ!」
 イワンは叫んだ。
「だって、時期的にありえないでしょう?! ザントマン事件ってここ5年だっていうじゃないですか。エドワードは3年以上ずっと刑務所に居たんですよ?」
「でも脱獄した」
 ユーリは淡々と言う。
「彼の能力は、物体転換及びそれの再構築です。事実あの厳重なN.E.X.T.セキュリティをすべて超えて彼は逃亡した。かつてアッバス刑務所から逃れられたN.E.X.T.は一人も居なかった。エドワード・ケディ、彼が最初だったのです。彼には脱獄する能力があった。人知れず徘徊できるそういった選ばし者の力が」
「違う、違う、違う! 絶対エドワードじゃない! 彼には目を抉る理由なんてない!」
「折紙サイクロン、あなたにも嫌疑がかかっているのですよ。軍と警察がこの事件の対応にヒーローへ召集をかけました。その中にあなたは含まれて居ません。これがどういうことか判りますね?」
「!」
 イワンはそんな、と小さく呟いた。



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