Novel | ナノ

琺瑯質の瞳を持つ乙女(6)


SCENE 2

 バーナビーは真面目にトレーニングを、虎徹は適当にぶらぶらしているいつものトレーニングルームの風景。
バーナビーはトレッドミルでかなり早く走っている。 リズムに乗ってやれば1時間ぐらいは変わらない心拍数で彼は走れるので、自分の身体データをPDAと連動させて記録しながらのトレーニングだった。
「タイガー真面目にやんなよ」
 折角一軍上がってきたのに、直ぐに落ちるよそれ。
カリーナが頬を膨らませて文句を言う。
ベンチプレスに横になっていた虎徹を見下ろしながらぎゃんぎゃん説教してくる彼女を、虎徹は苦笑しながらへいへいと軽くいなしている。
バーナビーがちらりとカリーナを見て「今日はそのおじさんそれでいいんです」と言った。
「へ? なんで?」
「上半身痛めてるんですよ。肩は脱臼気味で鍛えるなら足になるんでしょうが、僕が補助しないと危険なんで待っててもらってるんです」
「だったら走ればいいじゃない」
「いや、走ると上半身も結構動いてしまうんで、出来るトレーニングは限られます」
「んー、じゃあ柔軟でもしとくよ」
 虎徹が鼻の頭を掻きながら身体を起こし、さてというとバーナビーが鋭くやめてくださいと言った。
「大体なんでブルーローズさんがそんなに虎徹さんをせっつくんです。故障させて一軍から引きずり落としてKOHの座を狙うつもりですか」
「な!」
 カリーナがさっと顔を赤くした。
「僕らには僕らのやり方があるんです。一々口を出さないで下さい」
 カリーナは暫くその場で肩を怒らせてふるふると震えていたが、やがてつんと頭を反ると無言で立ち去っていった。
「おい、お前」
 虎徹が困ったように言う。
「ちょーっと今のは酷いんじゃないか?」
「なんでです?」
 バーナビーが足をせっせと動かしながらこちらもつんと顔を反って冷たく言う。
「あれは多分俺を思って言ってくれてたんだと思うぞ。二軍落ちすんなって心配してるんだ」
「虎徹さん僕のことも結構舐めてますよね」
「舐めてる?」
 バーナビーはじろりと虎徹をみやった。
「脱臼だけじゃなくて足、そっち。 右脚筋伸ばしてますよね? 確かに僕らは肉体的損傷には強いです。でも、他人に気づかれない内に直そうとするなら、それ少なくとも2日は安静にしてないと無理でしょう。その間に出動要請あったらどうするつもりなんだっていうのは毎度の事だから置いといて、何故貴方普通に家で大人しくしてないんです? 他のヒーロー達へ無事のアピールをする為なんでしょうが、やりすぎです。ブルーローズのあれば、貴方の怪我がどの程度なのか探りを入れているってのもあるんですよ」
「あれはブルーローズのせいじゃねぇだろう」
「気にするとこそこじゃないでしょう? 僕も騙そうとしてますよねそれ。反省して下さい」
「反省する事多いな!」
「これ以上茶化すなら、僕を馬鹿にしてるとみなしますよ」
「なーんでそう取るんだよ」
 虎徹は肩を軽く竦めた。
「ごめんなバニー。気をつけるよ、本当に反省してる」
「本当ですね」
「うん」
 バーナビーははあっと溜息をついて首の後ろを撫で付ける。
虎徹は目を細めてその赤くなった首を眺めていた。
バーナビーはモデルのように顔にかく汗をコントロールできたり、表情をコントロールしたりはできるのだが、衒いや照れはこうして首の後ろに出てしまうことを虎徹は知っている。 本当にコイツは俺の事を心配してくれてんだなあとなんだか少し嬉しくなった。
「あのさ、バニーさ・・・」
 言いかけて虎徹とバーナビーは両方同時に動きを止めた。
その時トレーニングセンターに居たヒーロー達全員が同じように動きを止め、突然のコールに険しい顔になった。
「言った傍から・・・」
 バーナビーが悔しそうに言う。
「虎徹さん、今日は僕が後方援護します」
「いや、大丈夫だよ?」
「駄目です、いっその事今日は前に――」
 言いかけるバーナビーの口を虎徹はしっ、と言って右手で塞いだ。
何時ものアニエスの声ではない。PDAから聴こえてきたのは、落ち着いた調子の低い男性の声で虎徹には直ぐに判った。司法局裁判官兼ヒーロー管理官のユーリ・ペトロフだ。
「え、なんで司法局から――」
 アントニオも怪訝そうな顔をしたが、ネイサンが黙ってと人差し指を口に当てる。
『重大事件が発生しました。 軍と警察も交えての合同会議を行いますので、各社CEO及び正規ヒーローは20時00までにジャスティスタワー会議室へ集合下さい』
「えっ・・・」
 パオリンが不安な顔をする。
キースがさっと顔を険しくした。
かつてこうやってヒーローが会議室に召集されることがままあった。しかしそうなると大抵犯人が不明または、目的が不明等と難事件へと発展する事が多く、一番印象深いのがあのクリームによる「シュテルンビルト占拠事件」だった。まさかまたなのとネイサンが小声で呟くのに、虎徹とバーナビーは立ち上がってどちらからともなく行こうと言った。
「また時間まで猶予があるが、何時でも出動出来るようにしておかないと」
 そういって虎徹はベンと斉藤に連絡を入れる。斉藤は直ぐにメンテナンスと調整に入ると請け負ってくれた。
バーナビーもPDAに次に出たロイズに深く頷いて了解と言った。
『うちはCEOが今シュテルンビルトに居ないので、下手をすると私が出席する事になりそうです』
 ロイズが自分も今シュテルンビルトの北端にいるので、20時に間に合うかどうかぎりぎりだという。
時間を見ると、17時を少し回ったところだった。



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