Novel | ナノ

琥珀を捕む夢(22)


NC1979.貴方は私を思い出す

「いやもうびっくりしたな」
 虎徹は頭を掻いてそう言った。
いやさ、お前が帰ってくるんじゃないかってのはさベンさんもロイズさんも予想はしてたんだよ。 でもまさかいきなり飛び込んでくるとはなぁ。
「つーかお前さ、アレ車踏まなくてもなんとかならなかった?」
「賠償金は虎徹さん持ちですよ」
「だっ!」
 くっそ、お前だろー踏んだのお前だろー。 もっとソフトタッチで乗れば良かったんじゃねぇの〜と虎徹が言うにバーナビーは軽く肩を竦めた。
「だってあれ、能力発動しなきゃ間に合わなかったですよ。 それに残りの犯人うち一人、僕捕まえて警察に引き渡しましたし」
「ウッソ」
 虎徹が目を見開くのにバーナビーは更に呆れた顔になった。
「だって一軍は全員出払ってたじゃないですか。 二部リーグの他のヒーローたちは経験浅すぎて――というか学生のノリで全然捕まえられないし。 見ててハラハラするんですよ。 犯人が分散した段階で直ぐに確保しました。 あんなの逃亡ルート予測すればあっという間でしょう」
 大体かっぱらいだし普通人ですし。
「そうは言うけどさ、お前それにしてもよく俺が落下する位置が予測出来たな」
「それは――、そう確かに不思議なんですよね」
 なんだあと虎徹はバーナビーの答えに首を捻る。 バーナビーもあれなんででしょうと首を捻ってああそうだと言った。
「ほら、僕らの能力って意識すると感覚全て100倍に出来るでしょう? うーんでも今思えば彼女たちもN.E.X.T.だったのかな。 可愛い子が指差してたんです。 お母さんは金髪みたいだったので養子かな、それとも全然関係ない二人だったのか」
「?」
「綺麗なストレートの黒髪をした女の子でしたよ。 身体の周りが金色に縁取られるみたいに輝いていて、それがきっとその子のオーラだったんでしょう。 声は聴こえなかったんですがはっきり判ったんです。 こっちに虎徹さんがいるよって指差して教えてくれた」
「黒髪のストレートで日系人、鳶色の瞳で、10歳ぐらいの女の子――」
「あれ? 知り合いですか」
 バーナビーが不思議そうにその通りですと虎徹に言う。
その瞬間鮮やかに思い出したのは。

――友恵。

「いや、知ってる訳じゃないんだ。 生前さ、友恵がよく言ってたんだよ。 日系の10歳ぐらいの女の子が近所に住んでいて良く会うのに何処の誰だか判らないって。 俺は一度も見た事が無いのに友恵はよく言っていてさ、彼女に――そう、亡くなる一週間前にも言っていたんだ。 もしそういう子を見かけたらそれが貴方の守護天使よなんつって」
「守護天使」
 バーナビーが繰り返して言う。
「ああ、よく言いますよね。 守護天使は実は二人居て善悪を司るとか」
「俺もさ、守護天使ってアッチの神様の話だろ? 俺たちには関係ないしいたとしたら金髪なんじゃねえのって言ったらさ金髪の守護天使も居るんだとさ」
 なんかそっちは凄く美人なんだけど眼鏡かけてるらしい。 目が翡翠で髪の毛なんかくるんくるん。 あれ?思い出してみたらそれお前でも可だよな。 どうなってんだ。
バーナビーは虎徹のいい様に吹き出しつつ、守護天使は肉親の魂が化身した姿だとも言われていますよと言った。
「その条件だと僕の母も守護天使の資格がありますね。 母も眼鏡でくるんくるんの金髪でしたし」
 じゃあきっと友恵さんと僕の母がバディを組んで、僕らを見守ってくれてるんですよ。
目を伏せてあながち冗談ではなくバーナビーはしみじみとそういう。
「へっ?」という間抜け面でバーナビーを見ていた虎徹は、その言葉の意味が脳に浸透するにつれてじわじわと目を潤ませる。
慌ててごしごしと右腕で目頭を擦ると鼻を啜り上げて叫ぶようにこう言った。
「畜生っ、目から鼻水だっ」
「虎徹さん」
 バーナビーが失笑して、虎徹はぷいっとそっぽを向くと踵を返す。
ごしごしと袖口で尚も目を擦りながら、虎徹はバーナビーに左手を。
身体は前に前に歩きながら後ろに手を差し伸べて、ぱしっとバーナビーの右手を掴む。
 あ。
バーナビーは虎徹の左手を見た。
しんと指輪、その金属の感触が右手の中指に当たって自分と同じ体温になった。
「奥さん、何時でも虎徹さんの傍にいらっしゃるんですね」
「あたぼーよ、いい女だから」
「今でも」
「海の向こうに待たせてんだ。 いつか誰もが其処へ行く。 それまで精一杯生きてろって」
「僕も?」
「先に行って待っててやるよ」
 順当に行けば俺が先じゃなきゃ困るだろうがと虎徹が言う。
そうですね。
バーナビーは照れたように笑った。
「でも、出来るだけ長く傍に居てください――居たい」
「あー、そうだな。 そんなに早くくたばる予定もねーしな」
 いーよ。 出来るだけ長く傍に居てやらあ。
はい。
 バーナビーはちょっと嬉しくなって虎徹に腕を掴まれるまま一緒に歩く。
静かに雪が降っていた。



[ 97/282 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
【Novel List TOP】
Site Top
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -