一日の授業が終わり、今から向かうは祓魔塾。まだまだ賑やかな教室や廊下の人混みをすり抜けながら、静かな屋上に向かう。私はだいたいいつも人に見つからない屋上の隅にある古びた扉を使っている。祓魔師という職業が隠された存在ではないのだから別に見つかったって平気なのかもしれないけど、何だか嫌なのだ。はぁ、と溜め息。そして屋上に向かう階段をゆっくりと登っていく。



「あ……むむむさん?」



聞こえた声に階段を見上げれば、ふわりと微笑む朴さんがいた。そのままゆっくりと私のところまで降りてきてくれて、少しだけ緊張した。



「今から塾?」



彼女の問い掛けに、うん、とだけ答えて小さく頷いた。朴さんも同じ祓魔塾に通っていた時期があったけど、正直その頃からあまり話したことは無くてやっぱり少し人見知りをしてしまう。それでも優しく笑いかけてくれる朴さんはすごく優しい子だと思う。そして少しうつむいた彼女は、



「むむむさんは凄いね」



そう、小さく呟いた。ほんの少し落ちて見えた表情は私の見間違いなのだろうか。



「珍しい二人やな」

「あ、志摩くん。久しぶりだね」



下から来たのは今度は志摩くんだった。志摩くんと私と朴さん、彼が言ったように凄く珍しい組み合わせだ。いつものようにニコニコした志摩くんは、嬉しそうに朴さんに話し掛けている。
何だか少し不思議な空気。朴さんと志摩くんと、それから私。嫌な空気とかそんなんじゃなくてなんか、不思議なんだ。



「二人ともすごいよね。私なんか頑張れなかったのに」



そう、呟いた朴さんの顔は確かに憂いを帯びていた。悲しそうとかそんな表情じゃない。多分彼女は塾を辞めたことを後悔はしていないし、それで良かったと思っているんだと、思う。
…――私も辞めたら、こんな風に毎日憂鬱な気持ちにはならなくて済むのだろうか。それとも。



「ほな今日も頑張ろか」



朴さんと別れ、志摩くんがポンッと軽く私の背中を押す。前に進む足は少し複雑な、そんな足取りになった。





それとも少しは後悔というものをするのだろうか


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