随分と久しぶりに風邪を引いた。軽い風邪ならマスクをしてでも行くけど、今回の風邪はなかなか厄介なものだった。めちゃくちゃ高熱ってわけでもないが、普通より高い熱が何日も続き、更に食欲のない日が平行して続いたもんだから治った今では体重が3キロほど減っている。実家にいた頃はお母さんが作って無理矢理にでも食べさせられていたご飯も、一人になってそんな状況だったからほとんど食べられていない。そんなだから余計に長引いたのかもしれないけど。



「…大丈夫ですか?」



塾の教室へ向かう途中、聞き慣れた優しい声が私に声を掛けてくれた。久しぶりに見る気がする彼は、これから勉強を教えてくれる奥村先生だ。私が小さく大丈夫だと返事をすると、よく見るあの困った顔で少し痩せましたねと言った。そんなに見てわかるくらい痩せたのかな…って。やっぱりちゃんと食べておけばよかったと今更後悔。



「むむむさんが休んでいる間に授業はかなり進んでしまったので、近いうちに補習になると思うんですが…」

「大丈夫です、わかりました」



治ったけどまだ怠い、そんな私のやる気がない上に食い気味の返事に先生は小さく息を吐いた。申し訳無いけど今は気を遣っていられるような元気も余裕もない。塾の勉強もそうだけど、問題は学園の方なのだ。塾の授業は人数が少ないせいもあってか、言ってくれたように補習とかやってくれるけど。学園はそうはいかないのだ。ただでさえギリギリな私が長く学校を休んだとしても、私一人のために補習なんてあるわけないし、ノートを見せてくれたり勉強を教えてくれたりする友達もいないのだ。それを考えるだけでも頭がいたい。これならもっと風邪を引いていればよかった。…そんな事したら今以上に困るハメになるだろうからそれは訂正するけど。



「学園の方の授業は大丈夫ですか?」

「…大丈夫じゃないですね」



今一番聞いてほしくないことだった。本当なら頭を抱えて今にでも泣き出したい程だけどそんなことできるはずもない。そんな心配してくれるなら、塾の補習なんかより学園の授業を教えてもらいたいよ、なんて、



「僕で良かったら補習の時間にでも教えられるんですけど…」

「……」

「すみません図々しいですね、」



悪態を突いていた自分を蹴り飛ばしてやりたいと思った。すみません、なんてそんな、むしろ私がすみませんって言わなきゃいけないんじゃないかと思うくらい、彼はまた苦笑いを浮かべていた。



「…あの」

「え、あ…はい、」

「勉強も教えてもらっていいですか?」

「…あ、はい!勿論です」



安心したように笑った先生から目を逸らして、私は凄く安心していた。学年トップの彼に勉強を教えてもらうっていうのは心強い以外の何でもなくて。お願いしますと私が言えば、こちらこそ、ってまた丁寧に返してくれる先生の事が今より少しだけ好きになれる気がした。


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