塾に通い初めてから暫くが経ち、内容もようやく分かってきたようなそうじゃないようなそんな時期。最初に比べれば随分と内容も理解出来るようになったしテストの点も少しだけ伸びてきた。少しだけ。しかし昨日行われた奥村先生のテストは見事に惨敗。理由は簡単、学園の方のテストと被っていてそっちに集中していたから。



「奥村くんはまだ来ていないようですね」



塾の授業が終わった今、見事に赤点だった私と奥村くんは居残りで補習をしなければいけなくなった。逆に赤点を取らなかった皆の頭の中が知りたい。やっぱり元々の出来、それから…やる気、が違うのかなぁなんて事を呑気に考えながら私は悲惨なテストを眺めた。
同じく補習の奥村くんはまだ来ない。奥村先生は時計を確認しながらイライラしているようで、眉間にはおもいっきりシワが寄っている。暫く待っても現れない奥村くんは補習を忘れて先に帰ってしまったのかもしれない。普通にありえそうだ。痺れを切らした奥村先生はもう始めてしまいましょうと私の隣に座った。一対一の補習だからこうしたほうが効率はいいのかもしれない。隣に座る彼の身体の大きさには少しだけ怯む自分がいた。



「これは覚えていますか?」

「…こんなの勉強しましたっけ」



私の素直な意見に奥村先生は盛大な苦笑いを浮かべながらも、教科書やノートを使ってイチから説明してくれる。しかもその説明がとても丁寧で分かりやすい。さっき私が言った言葉が本当に申し訳無く思えた。
勉強もある程度進み、先生は少し休憩しましょうかと言った。腕を伸ばして伸びをする私と、休憩と言いながらすぐ隣で私の教科書やノートを確認する先生。(ノート取ってあったからちゃんと授業は受けてたみたいだ)



「ノートは綺麗に取ってあるんですね」

「…そう、みたいですね」

「今回は学園のテストもあったから仕方ないのかもしれませんが…」

「……すみません」

「いえ謝らなくてもいいんですが、」



困った顔で私を見て、それから視線はまたノート。ノートを写すだけでも結構頭に入ると思うんですが、と言った奥村先生に私は頷けなかった。内容分かってないのにノートだけ写しても、理解なんて出来るはずないのだ。私は奥村先生とは違う。奥村先生みたいに、他のみたいに両立は出来ない。
それを僻んででいるわけでも、羨んでいるわけでもないけど。結局私は私なのだ。
妙な沈黙が生まれ、隣同士だし気まずくなって話題を探す。



「奥村先生は今回も学年トップでしたよね」

「…一応、こちらで講師をやっている身分でもありますから」

「……大変なんですね」



そう呟いた私に、奥村先生はなんとも言えない表示を浮かべた。実際、学年トップを取ることなんか彼にしてみれば何でもないことなのかもしれないけど。私と同じ年で誰かに勉強を教える立場になれば、何て言うんだろう、なんか、よくわからないけど色々大変なんだと思う。



「私みたいな問題児は大変でしょう?」

「奥村君の方がずっと問題児ですよ」

「…そうかもしれないですね」



視線は教科書のままでも、フッと笑って見せたその表情が意外で、だけど初めて見るその表情に私もつられて小さく笑う。
なんかもう少しだけ頑張ってみてもいいかなって、そんな事を思った瞬間だった。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -