ズボンから飛び出す真っ黒な尻尾。ふよふよ、あっちこっちを行ったり来たり。私を見付けるとまるで犬のように尻尾が揺れる。



「今日は早いんだね」

「まぁな」



ゆらゆら、揺れるソレは彼が“悪魔”である証のようなもの。尖った牙も尖った耳も、全ては彼を悪魔と示すようなものばかり。こうやって普通に話す限りは、何でもないただの人間なのに。
彼が悪魔だと知ったとき、皆の反応は様々だった。あからさまに拒絶する人、戸惑う人、少しずつ離れてしまった人。私は最初こそ戸惑ったものの、彼らのように悪魔に対して何かを思うようなことはなかった。そもそも祓魔塾に入るまで悪魔なんて別に関係ないものだと思っていたし、勉強するうちに悪魔が悪いものだけじゃないというのもちゃんと知ってきた。彼が悪い悪魔じゃないこと、ちゃんと分かってるつもりでいる。
教室に入ってきた勝呂くん、志摩くん、三輪くん。3人は…と言っても主に勝呂くんだけど、彼はあからさまにこっちを睨み付けて通り過ぎていく。



「宿題やってきた?」

「…し、宿題…?」

「昨日出たやつだよ…私も半分くらいしかやってないけど」

「ヤベェ教室だ!」



と、急いでプリントを取りに行く奥村くんに呆れて溜め息が出た。私は自分のプリントを眺めながら奥村くんが来るのを待つ。するとプリントに落ちる影、見上げると、勝呂くんがいた。



「…何?」

「お前は、アイツを何とも思わんのか?アイツは悪魔やぞ?」

「知ってるよ、奥村先生も説明してくれたし」

「そうやって解ったように言うて理解でもしたつもりか?…お前は何も分かってへん」

「……わかってないとか、そんなの言われたくないよ」



あからさまに鋭くなった視線が、本当は凄く怖かった。だけど私は変なこと言ったつもりもないし、彼が言いたい事に同意するつもりもない。悪魔だから何だ、悪魔だから、何なのだ。



「お前はアイツに同情してるだけや」

「…何が言いたいのかよくわかんない」

「…っええ加減にせぇよ…!見とって腹立つねん!私は理解してます、私は分かってます差別なんかしません、そんな偽善が通用すると思うな…!アイツは紛れもない悪魔や、オレはアイツを認めるつもりも許すつもりもない…あいつは俺らの…“祓魔師”の敵やっちゅうこと忘れんな…!!」



バンッと机を叩き、彼は去っていく。しんとなった教室に、場違いな奥村くんの声が響く。



「プリントなかった」



いつもと変わらない、笑顔を見ると胸が締め付けられるように、痛い。…こんな風に思っている時点で、勝呂くんの言う通り私は彼に同情しているだけなのかもしれない。どうしていいのかわからない、だからこそ私は、いつも通りに奥村くんに接する事しか出来ないでいるのかもしれない。









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悲しいより切ない話になった


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