入学してから数ヶ月、学園生活は未だうまくいかない。友達は出来ないし勉強もうまくいかないし、正直もう疲れた。これならまだ塾の方が上手く行っているような気がして、何だか少し複雑な気分。
今日もお弁当を持って一人、だだっ広い廊下とだだっ広い校庭を歩く。向かうは校舎裏にある秘密の場所。そこにはひとつ、古びたベンチが置いてある。だけどこんな汚くて湿気た場所に来るような生徒はこの正十字学園にはいないだろう。この場所で1人、ゆっくりお弁当を食べるのが私の安らぎだったりする。寂しくない、といえば嘘になるけど、私だけ浮いた状態でいるよりずっといい。
お弁当は冷凍食品と昨日の残り物。だけどこの学園の食堂でご飯なんて食べてたら数日で破産だ。寂しいとか虚しいとかそんなことより、お腹が満たされればそれでいい。美味しいよ、冷凍食品。



「あれ………むむむさん?」



お弁当の中身に箸をつけようとしたとき、聞こえるはずの無い声が聞こえて顔をあげる。しかもそこに居た人物もまた、こんな場所には似合わない人物で固まってしまった。
私とはまるで正反対の人物。



「…こんにちは」



隣いいですか、と軽く微笑んだ彼は優雅に私の傍に腰を下ろす。こんな湿気た場所で、こんな古びたベンチに座る彼には何だか違和感がある。だけど彼はそんな私の思考に気付くはずもなく、持っていたお弁当の包みを広げた。中身は手作りなようだが、それはそれは豪華で彩りも完璧。やっぱり彼みたいな完璧な人は料理も出来ちゃうんだ、なんてぼんやりとそんな事を思った。隣でこんな質素なお弁当を食べるのが恥ずかしくて仕方ないくらいだ。

私と彼のあいだに不自然な程に静かな空気が流れる。正直、気まずい。だってそんなに仲良くないし、そんなにっていうかほとんど話したこと無いし。彼は学園では一応同級生だけど関わりなんて全く無いし、塾の先生だけどまぁやっぱり、関わり無い。口に運ぶ箸も何だかいつもより重い気がする。



「いつもここでお弁当を?」

「…ああ、はい、雨降ってなかったら」



…他人行儀。せっかく話し掛けてくれたのに、なんか、ほんと申し訳ない。もしかしたらここに来たこと物凄く後悔してるかもしれないけど、でもそれは私のせいじゃないしなぁ…なんて思考がぐるぐる。横目で彼を確認してみると、お弁当を食べる姿も優雅。それにしても静かだ。



「……今日はどうしてここに?」



沈黙に耐えきれず、私から声をかける。彼との距離感はよくわからなくて、敬語ともタメ口とも取れるような口調。先生だけど同級生、なんてこんな特殊な状況は普通ならありえないんだろうな。
彼は箸を止め、私の方を向いて浮かべていたのは苦笑い。



「いつもは中庭なんだけど、今日は女の子が多くてゆっくり食べれそうになかったから」



自慢、のつもりはないだろうけど、やっぱりモテるんだなぁと再認識。そういやクラスの女の子も奥村くんとか雪男くんってよく言ってるような気がする。確かに、頭も良いし優しいし、しっかりしてるし、一般的に言えば格好いいだろうしメガネ男子だし。メガネ男子、関係ないか。



「今日は天気がいいですね」

「そうですね」

「こんなにゆっくりした昼食は久しぶりです」



ゆっくり、またお弁当に箸を伸ばした。いつも女の子に騒がれているんだろうか。それなら、うるさいよりも静かな方がいいのかもしれない。彼には気まずいとか、そんな気持ちはないのかな。…って思ったけどまぁ、彼がそれでいいのならいいのかもしれない。



「またここに来てもいいですか」



そんな事を言った彼を思わず二度見してしまう。え、これでいいのこんな空気で、って疑問が湧く。優しく微笑んだ彼に、困った私は小さく頷く。明日からはもう少しちゃんとしたお弁当作ろう、と思いながら残ったらおかずに箸を付けた。




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