放課後、教室で先生に頼まれた用事を済ませていた私は帰るのが少しだけ遅くなってしまった。
恐らくもう誰もいないであろう校舎を歩くのは少しだけ寂しく感じる。
グラウンドからは声がまだ聞こえてきて、運動部って大変だななんて思いながら靴を履き替えていた私に話しかけてくれたのは、今まさに私の隣を歩いている人だった。



「まだ明るいね」

「そうだね、もうこんな時間なのに」



ドキドキ、してるのは私だけかもしれないけど。
隣を歩く悠太くんは時々こうやって話し掛けてくれて、その優しさにまた胸がキュンとする。
悠太くんも部活をしていたらしく、部活後に茶道部の顧問の先生と少し話をしていたらこんな時間になったのだとか。



「茶道部の先生って、確か、えっと…つ、なし?先生…?」

「合ってるよ」

「見たことないんだけど、素敵な人だって松岡くんが言ってた気がする」



茶道部についてはよく知らないけど、確か茶道部の顧問の先生はどこかからわざわざ来てくださってる、とか。
全部誰かから聞いた話だからよくわからないけど。

いつもの道は真っ直ぐなんだけど、悠太くんは少し反れた道に入る。
こっちからでも帰れるし、もしかしていつもこっちから帰ってるのかなって、そんな小さな情報がなんだかとても嬉しい。



「茶道部って部活中は着物に着替えるんだってね」

「それも春から聞いたの?」

「ううん、着物姿カッコいいってみんな言ってるよ」

「…別に普通だと思うんだけど」

「え、絶対カッコいいと思うよ」



見てみたいなぁ、と小さく呟けば微妙な沈黙。
い、言わない方が良かったかな、悠太くん普通に話してくれるから調子乗っちゃったかな、って。
並んで歩きながらどうしようもない後悔。
別の話題探そうって、内心焦りながら本当に本当に後悔した。



「…一回、茶道部に見学に来てみたらいいと思うよ」

「……へ、え、でも、」

「祐希や千鶴もたまにだけど、お茶菓子食べに来るし」

「え、そうなんだ…なんか想像出来るかも」

「うん、だから…良かったら」



良かった普通に返してくれた、っていう安心と、誘ってくれた喜びで胸がいっぱいになる。
悠太くん優しいから言ってくれただけかもしれないけど、それでも…なんだろう、凄く幸せ。

少し浮かれた気持ちで、いつも私が歩かない道を進んでいく。
空はもうオレンジ色。



「綺麗な夕陽だ」

「ほんとですね」



並ぶ影が何だか少し照れ臭くて。
私は下を向いて緩んでくる顔を隠す。
やばいな、ニヤニヤしちゃう。



「私、こっちの道ってほとんど来たことなかったんだ」

「俺もです」

「………え、」

「むむむさんと話したくてわざと遠回りした、って言ったら怒りますか?」



ぽかん、と。
え、あの、え、なんで…なんて思いながら、すみませんって謝った悠太くんに私は何度も首を横に振った。
間抜けな私を横目で見た悠太くんは、いつもと変わらない表情でゆっくり歩き出す。
私もそれを追い掛けて、真っ赤であろう自分の頬がバレないようにまた下を向いて歩いた。


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