お昼休み、お弁当を食べるためにやって来たのは校舎裏のほとんど人がいない場所。噴水や中庭にはもうすでに人が沢山の生徒が居て、賑やかな中で私一人でポツンとご飯を食べる勇気が出ずここに来たのだ。何度か座ったことのあるベンチに近付くと、なんだか小さい子が座り込んでいた。え、こんな小さい子がどうして学園に?と前に回り込んで声を掛けようとしゃがみ込む。ぱっと顔を見て私は驚きを隠せず、しばらく沈黙の後に見たことあるその顔の少年の名を呼ぶ。



「…え、奥村くん?」

「おれももう何がなんだか」



いつも肩を並べている奥村くんとはサイズ感が全く違う。だけど顔も声もしっかりと彼のままで、短いむっちりとした腕を組んで深刻そうに未経にシワを寄せていた。
取り敢えず私は隣に座って彼の話を聞いてみる。今日たまたま早起きした彼は早くに学校に来て、気分が良くてそのままこのベンチで寝てしまったらしい。寝過ぎたかと起きてみれば身体に違和感があり、気付いたらこのサイズになっていたと言うこと。にわかに信じがたいが彼はどこからどうみても奥村くんだし、嘘ではない、と、思う。



「それにしても、制服まで一緒に縮むなんて漫画みたいだね」

「おれもびっくりしたぜ!」

「…喋り方可愛くなったね」

「え?そうか?よくわかんねぇけど…」



頭にハテナマークを浮かべた小さな奥村くんはとっても可愛い。地面に届いていないその足はプラプラと揺れ、なんかもう抱き締めたくなるような愛らしさがあった。
取り敢えずお腹が空いたねと二人でお弁当箱を広げる。奥村くんのお弁当は相変わらず豪華で、彩りもすごく綺麗で美味しそう。箸はすごく持ちにくそうだけど。私が自分のお弁当のフォークを差し出すと、ニカッと笑ってそれを受け取った。代わりに私が奥村くんの箸を借りることになるけど、この際“そういう”ことは気にしない。そもそも箸やフォークなんて洗ってあるものだし、中学生でもないんだから。



「今日ずっとここにいたの?」

「これじゃ教室いけないだろ」

「まぁね」



普通に受け入れてる私もどうかと思うけど、現実こうなってるんだから仕方ないだろう。これが見た目とか全く違ったらそりゃ私も疑っただろうし信じたりなんかしないけど、奥村くんそのものなんだから。お弁当を必死に食べる小さい彼を横目で見るのはなんだかとても癒される。ガツガツ掻き込みながら何かを必死で喋っている彼は、何度も言うがやっぱり奥村くんだ。



「のど渇いた…」

「あ、私も。買いに行く?そこにほとんど人が来ない自販機あるし」



指差した場所にはポツンと佇む錆びれた自販機が一つ。品揃えもなかなか渋いが、まぁ問題はないと思う。お弁当をしまってベンチから飛び降りると「いやでも俺今金がねぇ…」と切実に落ち込んだ。いやジュースくらい買ってあげるよ、と言うとニパッと笑ってるんるんとでも付きそうなくらいに喜んでくれた。(…可愛い)
自販機の前に着くと彼は画面を見上げ、背伸びしたり睨み付けたりしている。きっと何があるか見えないのだろう。私は財布から取り出したお金を入れると、前で頑張っている奥村くんのお腹に手を回して持ち上げた。ビックリしたのか暫く動揺していたけど、早く選んでと言うと真剣に選び始める。いや、意外と重いんだね奥村くん…。



「何をしているんですか?」



そんな声に私が横を向くと、驚いたように目を見開いた今度は奥村先生がそこにいた。バッチリ目が合うと、今度は未だ迷っている奥村くんを見てさらに意味がわからないと口を開けたまま私たちを見ている。奥村先生から見ても、私に抱えられたこれは確かに奥村くんなんだろう。



「な、何をして…いや、一体どうなっているんだ…」

「いやなんか奥村くんが小さくなっちゃって困ってたみたいだから」

「いや、あの…そんな冷静に…」



ボタンを押したらしく私は奥村くんを地面に立たせた。ジュースを取り出してようやく奥村先生に気づいたらしく、おぉ雪男じゃねーか!と明るい声で元気に挨拶。私も自分の分のジュースを買って、連れて帰った方がいいと思いますよ、とそう先生に言った。



「……そ…そうですね、今は取り敢えず……何だかすみません、兄が迷惑をかけてしまったようで」

「え、いや、別に。一緒にご飯食べてただけですから」

「……それにしても本当に冷静ですね」



私に代わって奥村くんを小脇に抱えた奥村先生は、お得意の苦笑いで最後に一度頭を下げて、回りを確認しながら急ぎ足で奥村くんを寮に連れていった。んだと、思う。
不思議な出来事ではあったけど次の日にはいつものサイズの奥村くんが塾にやって来て、普通に授業を受けていた。朝起きたら元に戻ってた、と言って笑った彼につられて私も同じように笑っていた。


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