海を眺めていた私の髪に誰かが触れた。驚いて振り向けば、煙草を咥えたサンジが私の髪に触れていた。
「随分伸びたなァ」
「もうずっと切ってないから」
こっちに来てからもうどのくらいが経ったか分からないけど、こっちに来たばかりの頃よりも随分と伸びた髪。あんまり意識したことはなかったけど、言われると気になってくる。別に邪魔って訳じゃないし、邪魔なら結べばいいし。
「こっちの世界は不思議だよね」
「そうか?」
「サンジみたいに金色だったり緑にオレンジ、赤とかシルバーの人も見たことある」
「…髪のことか?」
「うん。私のいた所って染めるか抜くかしないとそんな色の人っていないんだよ」
「へェ」
もう随分と見慣れたものだけど、ルフィやウソップ、ロビンも真っ黒だけど、ナミみたいにオレンジ色だったり、ゾロも緑色だし、サンジもキレイな金色。奇抜な色はまるでアニメや漫画でも見ているような不思議な気持ちになる。外国に行けばブロンドの人もいるけど、染めてる人も多いみたいで本物は少ないって言うのも聞いたことがある気がする。
「みんな染めてるわけじゃないんだよね」
「ンな面倒臭ェことする奴ァここにはいねェと思うぜ」
「凄いよね、地毛が緑色やオレンジ色…なんかすごく賑やか」
私の世界じゃ他の人の目を惹くような色でも、こちらじゃどこにでも居て違和感も全くない。逆に華やかなのが不思議だ。
「――…そんな話聞いてっと、なんか不思議な気分になってくるぜ」
「どうして?」
「俺らにとっちゃ当たり前の事でも、むーちゃんにとってはそうじゃなかったりすンだろ?こうやって毎日一緒に過ごしてンのに、やっぱ生まれた世界が違うンだなって」
咥えた煙草を手に持って、何だか少ししんみりした気持ちになる。どれだけ毎日一緒に居たって、どれだけ一緒に困難を乗り越えたって、私たちは生まれた世界が違う。育ってきた世界が違う。
「それでも俺ァ、むーちゃんと出会えて良かったと思ってる」
胸がキュンとして、同時に少し切なくなった。理由なんて分からないけど、でも、何故だが少し、泣きそうになった。
「髪、切ンのか?」
「今のところそのつもりはないかなぁ」
「その方がいいさ、切るのは勿体ねェよ」
サラッと私の髪に指を通す。
生まれた、育った世界が違っても今こうやって側に居て、実際に触れることができる。本当に不思議な気持ちだった。私にしてみれば、未だにここがどこなのかよく分かってもいないのに。
「…ふふ」
「お、どしたァ?」
「気持ちいいなぁって」
「…ふ、今日は甘えるなァ」
サラッと私の髪を流れるサンジの手が気持ちよくて。なんかそんな辛気臭いこと考えるのやめようって、私はただその手の温かさを感じていた。
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