私の隣でお弁当を広げるのは、まさかの奥村先生だ。ここは別に学園の食堂じゃないし、皆がご飯を食べるような庭とかそんな場所でもない。たまに食べてる人はいるけど今日に限って私と彼だけ。ここは噴水の前。
「……」
無言。そりゃまぁそうだろう、だって特に話すことなんてないし。お互いひたすら箸を口に運んでいく作業を行い、たまにお茶を飲んだりして食べ進めていく。私が早く食べ終わるべきなのか、そうじゃないのか。でもどちらかと言えば早く彼が食べ終わってくれることを願っている。私の方が先にここにいたし…なんて、それはただの私の我が儘なのかもしれないけどそんな事を思う。
私のなかでこんな葛藤があるのも知らないであろう隣の彼は、特に焦る様子もなくのんびり優雅に箸を進めていく。こんな感じだったら私が早く食べ終わった方がいいかなぁ…と半ば諦め気味でお茶を飲み込んだ。
「今日は暖かいですね」
…――なんて、突然話し掛けてきた彼に私が咄嗟に返した言葉は「そうですね」の一言。考えたところで返事は変わらないだろうけど、無視するよりいいよねって自分の中で結論付けた。確かに今日は朝からとても良い天気。
「昨日、テストの採点をしていたのですが」
昨日、塾でやった小テストのことだろう。最初みたいに白紙で提出ということはないが、私と彼の兄である奥村くんの成績は毎回ダントツで良くない。私と奥村くんの点数にも結構な差があったりするけど、そんな私と他の生徒の点数はもっと違う。祓魔師に対しての根本的な想いの違いが点数に現れているのかも知れない。(奥村くんに対しては何も言えないけど。)私が優先するのはいつだって学園のテストだ。
「最初に比べればかなり点数が伸びてきましたね」
「…まぁ、最初に比べれば」
「…あ…いえ、そう言うつもりでは…」
最初に受けたテストは、彼を困らせるだけの白紙回答。それに比べればテストの解答欄を埋めようとしている分まだマシなのだろう。
…なんて、奥村先生はこんなことが言いたかったんじゃないって、ちゃんと分かってる。白紙で提出したあの時よりも、ほんの僅かかもしれないけど確かに知識は身に付いてきてる。文字にしたりするにはまだ曖昧だけど、なんとなく理解しつつあるのは自分でもそう思う。
「ところで、」
「あーっ!雪男こんなところに居たのかよ探したんだぜ!」
「……一体何なの」
「授業の成績ヤバイから課題出されちまって、それを教えてもらおうと…」
「…自業自得だろ」
盛大に溜め息を吐いた彼は変わらずにお弁当を食べ続けている。兄弟でのこういう会話を聞くことってあんまりないから、こんな奥村先生の姿を見るのもすごく貴重な気がする。知らないよとでも言わんばかりの態度に奥村くんは教えてくれよと頼み込む。…なんか、兄弟っぽいな、って、そんな当然の事を思った。
「つーかなんで二人で弁当食ってんの?」
「たまたまだよ」
「何だよ俺もこっちで食えば良かった!」
何故だか怒りながら私と奥村先生の間にドカッと座る奥村くん。私は何だか少しだけ気が楽になったような気がして、残り少なくなったお弁当に箸を伸ばした。
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