今日はゆっきー達とは別で登校中。一人で登校ってつまんねーって小石を蹴った、その先に一人の女子の背中を見つける。後ろから駆け寄っておはようって挨拶すると、びっくりしたみたいに振り返って、それからフニャッと笑っておはようって返してくれた。
「聞いた?」
「…何を?」
「今日ゆうたん風邪で休みなんだって」
俺がそう言うと、パッと目を見開いてそれから「そうなんだ」ってちょっと困ったみたいな顔。まぁ確かに、むむむさんに言ったところで別に何があるってわけじゃないんだけどさ。むむむさんはゆうたんのこと好きだし、もっと何かあるかなって思ったんだけどそれだけだった。
「ゆうたんとはどう?何か進展あった?」
「え、な、ないよないよ!橘くんこそどうなの、その、好きな女の子と」
「俺ぇ?むむむさんに報告するようなことは特にない…ようなあるような」
「え?」
「ナイショ!」
そうやって俺がニッと笑うと、え〜気になるよ〜!ってそんな反応。俺に好きな子がいるってのを知ってるのはむむむさんだけだし(あ…ゆっきーも、か)、むむむさんがゆうたんを好きだって知ってるのも俺だけ。なんか学生っぽくて良くない?むむむさんは、そんな“恋ばな”が出来る俺にとって唯一の存在。気になるよ〜!でもナイショ!なんて、そんなこと言いながら歩いているといつの間にか校門に辿り着いていた。
おはよう
「オッハヨー!」
「おはようございます」
「おはよう」
朝、下駄箱で千鶴くんとむむむさんに会う。二人は一緒に登校してきたみたいだけど、千鶴くんは先に歩き出していた祐希くん達の所まで走っていった。残された僕たちはのんびり靴を履きかえる。
「今日は千鶴くんと一緒だったんですね」
「うん、橘くんが声かけてくれて。今日は松岡くんたちとは一緒じゃなかったんだね」
「千鶴くん、少し遅くなるってメールくれたんですよ」
なんて、そんな会話をしながらゆっくり歩き出す。ふんわりとしたむむむさんの雰囲気に、つられるみたいに僕も同じ空気になる。僕もよく言われるけど、自分じゃそんなつもりないからよく分からなくて…。正直、僕は千鶴くんや要くん達みたいにむむむさんと話すことはあんまりなくて、でも時々話すとこうやって笑ってくれるから、僕も同じように笑っていられる。
「松岡くんって、癒されるなぁ」
「え…そ、そうですか?」
「うん、なんか、凄く素敵だと思うよ」
フワッと笑ったむむむさんに、嬉しいのと、何だか少し恥ずかしいので僕も笑って返した。いつものメンバーとは少し違う、たまにやってくるこんな空気がとても心地いいのです。
いい天気ですね
教室に入って席に着く。今日は珍しく悠太が風邪で休み。祐希は元気に登校してるんだから、やっぱりバカはなんとかってやつなんだろう。リュックから教科書や筆記用具を取り出していると、後ろからおはようと聞き慣れた声。振り返るとむむむがいた。まぁ、席が俺の後ろなんだから当然か。
「今日は悠太くん、休みなんだってね」
「あぁ、うん。知ってんのか」
「橘くんが言ってたから」
まぁ風邪っつっても祐希が言うには熱があるわけじゃねぇから明日には来ると思うけど、とそれを伝える。言ったところでむむむがどうこうするわけじゃねぇとは思うが、最近一緒になること多いしいいだろ。
「そういえば今日の放課後生徒会だって、先生から伝言」
「今日?…分かった」
「大変だね」
「まぁ役員だし仕方ねぇだろ」
「凄いね塚原くん。私だったら面倒臭いって思っちゃうよ」
ガサガサと鞄を探り、はい、と差し出されたのはチョコレート。疲れたときには甘いものだよ!なんて笑いながら俺の手に伸せていく。頑張りすぎないでね、って。言われ慣れないその言葉に、「頑張れ」と言われ続けて固まりそうな心が、ほんの少しずつ解れていくような気がした。
おつかれさま
午前の長い授業を終え、やっとの昼休み。千鶴と内容なんかないどうでもいい話をして過ごす。いつもあの5人でいるわけじゃないんですよ、とだけ言っておこう。今日は悠太がいないから要は寂しいかもしれない、と思うとちょっと面白い。まぁあの要が寂しいなんて思うわけないけど。
席を立ってトイレ行ってくると千鶴に言えば行ってらっしゃーいと気の抜けた声。いつもと同じ。廊下に出れば、教室よりもほんの少し冷えた空気が当たる。ダラダラと歩けば、見覚えある小さな背中が目に入った。声を掛けるつもりなんかなかったけど、たまたま振り向いてバッチリ目が合う。どうもと軽く頭を下げれば、フワリと笑って同じように頭を下げた。
「移動教室ですか」
「うん、なんか校庭で実験するんだって」
前から友達に呼ばれると、俺に向けて軽く手を振って小走りでそっちに向かっていった。俺らのクラスもそのうち校庭で実験するのかなんて事を思いながら教室に戻った。
「いいなー俺も校庭行きてー!」
「行けばいいじゃん」
「国語の小テストさえ終われば…!」
「千鶴が勝てない最大の敵じゃないですか」
午後の授業が始まる。静かな教室とは反対に、校庭からは隣のクラスの人達の賑やかな声が響き渡っている。眠い、と欠伸をひとつ。何気なく目を向けた先にいたむむむさんが俺に気付いて、また小さくてを振る。俺も同じように返すと、彼女はあの時みたいにまた笑った。
こんにちは
何処から貰ってきたのか、突然風邪を引いた。祐希は平気みたいで学校に行ったけど、俺は微熱で学校を休む。学校を休むってあんまりしないことだから何だか不思議な気持ち。クラスメイトや友達から大丈夫?なんて届いたメールに適当に返事をして、用意されていた薬を飲んだ。
こんな平日だからテレビもワイドショーや昼ドラ、サスペンスばっかり。祐希の漫画に手を伸ばすけど直ぐに閉じた。双子だってこういう好みは似なかったな、なんて何となくそんなことを思った。もうすぐ祐希が帰ってくる…なんて、そんなことを思ったとき机に置いてあった携帯が震えた。
( …―― むむむさん、 )
メールを開くと、提出物の事とか宿題やプリントを祐希に渡したっていう事がツラツラと書いてあった。わざわざメールしてくれるなんてむむむさんは本当に優しいと思う。誰かに言われただけかも知れないけど、祐希は多分忘れてるだろうし要もそこまでいい人じゃないから凄く有り難い。何て返信しよう、と考えでメールをスクロールしていくと、そこに見つけたメッセージ。
――ゆっくり休んでしっかり治してね、お大事に――
明日はもう行けるかな…さぁ何て返そうか。そんな事を思いながらむむむさんからのメッセージをぼんやりと眺めた。
またあした
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