月に一度、もしくは二度やってくる学生ならではの「日直」っていう仕事。
今日は私と後ろの席の塚原くんが日直の当番。
仕事は黒板消しだったりプリント類の回収や配布だったり、ちょっと面倒臭いけどそんな内容。
だけど一緒にやってくれてる人が塚原くんだから、仕事はほとんど彼がやってくれている。



「なんかごめんね、私ほとんど何にもしてないや…」

「あー…いや悪い、俺が勝手に仕事やってただけだわ」

「え、そんなことないよ!寧ろ助かってるよ、ありがとう」



塚原くんは多分、クラス委員長とかやってるから元々の責任感の強さが私とは違うんだと思う。
やらなきゃっていうのが私だとしたら、やって当然っていうのが塚原くん。
楽だなって、そんな気持ちもちょっとだけ。



「じゃあ日誌は任せる」

「日誌くらいなら」

「むむむは字も綺麗だしな」

「…本気で言ってる?」

「こんな嘘吐いてどうすんだよ」



私の方を向いて椅子に座った塚原くんが、机に肘をついて小さく笑った。

塚原くんに見守られながら日誌を書くのは何だか少し緊張する。
手に顎を置いて、じっと見られる。
変なことは書いてないんだけど、なんかなぁ。
チラッと彼を見ると一瞬目が合って、気まずくて逸らすと余計に気まずいような気がする。
塚原くんな全然苦手じゃないし、むしろ話しやすい人だと思ってるくらいなんだけど、なんか。



「……」

「…あ?なんだよ」

「いや、なんか。緊張して」

「はぁ?」

「……塚原くんってなんか良いよね」



私の発言に目を見開いた彼は「意味わかんねぇ」と顔を赤くした。
そんなところが、素直でなんか、良いと思う。
私がちょっと笑っていると塚原くんはムッとしながら早く書けよとそう言った。



「かなめー……あ、」



ドアから聞こえた声にそっちを見れば、相変わらずの表情をした悠太くんが立っていた。
私に気付いてペコッと頭を下げて、ゆっくりと近付いてくる。
私と塚原くんが挟んでいる机の横に立って、日誌を覗き込んだ。



「もうすぐ終わる?」

「これ書くだけだから終わるだろ」

「うん、もうすぐ」



一通り書いて、あとは日直の感想みたいな項目を埋めるだけ。
何て書く?と塚原くんに尋ねれば、何でもいいよって返ってきた。
確かに何でもいいんだけど、こういうのってどう書けばいいのかわからない。



「塚原くんが全部やってくれました…ってそれじゃダメだよね」

「俺はいいけどむむむがダメだろ」

「先生に怒られちゃうかな」

「だろうな」



取り敢えず「今日もみんな元気でした」と一言を書いて、帰る準備まだしてないだろって塚原くんが職員室まで提出しに行ってくれた。
やっぱり優しい。
悠太くんは横で待ってくれてて、私は急いで鞄に荷物を詰め込んだ。
悠太くんが塚原くんのリュックを持って、行こうって声を掛けてくれて私は頷く。
並んで歩くだけなのに、なんだか緊張してしまうのは相手が悠太くんだからだと思う。



「要とはよく話すんだ」



そんな質問に笑って頷く。
祐希くんや悠太くんは少し緊張してしまうけど、塚原くんはすごく話しやすい。
今も、緊張して何を話していいのかよく分からなくて、ぎこちない空気で廊下を歩いている。
悠太くんがどう思っているのかはわからないけど、多分、彼も多少なりとも気まずさは感じているんじゃないかと思う。



「……たまには」



ボソッと口にした言葉に、視線だけを彼に向ける。
こんなとき、他の女の子や岬ちゃんみたいに私から話し掛けられたら少しは印象も違うのかもしれないけど、私には無理。
こんなんだから片想いは片想いのままで、友達ともそうじゃないとも言えるような微妙な関係で、止まっちゃうんだろうなって思うと少し寂しくなった。



「俺とも話してくださいね」



続いた言葉に、落ちた気持ちは一気に上昇。
コクコク何度も頷く私は、彼から見れば酷く間抜けなのかもしれない。


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