読みたい本があった。普段はそんなに読書なんかしないけど、何と無く突然読みたくなったのだ。中学時代に司書の先生に勧められて一度読んだ本で、あやふやだったタイトルは調べてちゃんと思い出した。
それにしてもこの学校の図書館は本当に無駄なんじゃないの?っていうくらい、広い。このだだっ広い図書館には一体何万冊の本が収容されているんだろう。国立図書館とかじゃないはずなのに、無い本なんてないんじゃないだろうかってくらいにズラッと並べられた本には少し酔いそうだ。流石に漫画の本や雑誌なんかはないみたいだけど。



「……あった」



思わずこぼれた独り言に手で蓋をして、目標の本を見上げる。広すぎる図書館では探している本を見付けられるのかっていう心配があるかもしれないが、ちゃんと検索用のパソコンが用意してあるからそんな心配は必要ない。
ところがどうだ、見つけたはいいがそれからどうしようか、ということ。まるでハリーポッターに出てくるような本棚。私が求めている本は、届きそうで届かない微妙な高さの位置にある。もっと高い位置にあるなら届きませんと司書のお兄さんを呼べるのに、それもまた微妙な位置にあるから呼ぶのも何だか申し訳ない。
仕方ない諦めるか、とため息をついて体を90度回転、すると壁が目に入って思わず肩が跳ねた。



「…驚きすぎやろ」

「お…驚くよそんな、びっくりした」



壁のように立ちはだかっていたのは塾でお馴染みの勝呂くん。私が彼を無言で見上げていると、彼はため息を吐いて本棚に向き直る。



「どれ?」



と、そんな問いかけに一瞬キョトン。苛立ちを見せた彼は本棚を指差して「どれが読みたいんか聞いてんねや」と再び私に問いかけた。その声色はやっぱり何故か怒りを含んでいて、私が探していた本のタイトルを言うとそれを手に取り、渡してくれた。意外な行動にポケッとしてしまうと、なんやねん!とそう言って反対側に歩いて行ってしまう。



「あ、待って、」



彼に並ぶように私も足を動かした。ありがとうっていうと何故かまた睨まれたけど、照れ隠しなんだろうっていうのは何と無くわかった。



「図書館なんて来るんやな」

「実は結構見に来てるよ」

「どうせ暇潰しやろ」

「…そうなんだけど」



私が横を歩くことに特になにも感じていないようで、意外と普通に話してくれている。取っ付きにくい、っていうか実は彼のことはよくわからないんだけど、見た目によらず優しくて面倒見がいいことは知ってる。



「まぁお前はアホやで本くらい読まなな」

「…そうだね」



彼の言葉は冷たくて厳しいものばっかりだけど、同じ塾でなんとなく過ごしてきた時間がそれをオブラートに包み込む。嫌味は嫌味だけど、本当に私を嫌いでそんな事を言ってくるならこんな軽い感じで言ってはこないだろう。きっと殴りかかってくる、っていうのは言い過ぎかもしれないけど。
本の貸し出しの手続きを済ませている間も、勝呂くんは何故か隣で私を待ってくれている。



「わざわざ待ってくれてたんだね」

「……あ?」

「別に放っていってくれてよかったのになぁって」



私を見て顔を赤くした彼が先に歩いていく彼を追い掛けて呼び止める私は、彼の事を悪くは思っていないんだと思う。耳まで赤い勝呂くんを見て、私は思わず笑ってしまった。


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