放課後、たまに立ち寄っている図書館にいつもよりずっと賑やかな声が響き渡っている。
「だからこれさっき教えただろうが!」
「一回で理解出来たら苦労なんてしてないから!」
「一回じゃねぇよもう三回目だよ!」
「まだ三回目じゃん!もう要っち完全に俺の頭ナメてっから!」
前に座っている橘くんと塚原くんのやり取りに笑いを抑えつつ、私も手元にある宿題プリントに取り掛かる。
これが今どういう状況かと言うと、私はあの賑やかなメンバーと一緒に図書館で宿題をやっているのだ。
何でこうなったかっていうのは塚原くんが誘ってくれたからで、その理由っていうのが祐希くんと橘くんと松岡くんに勉強を教えるのに悠太くんと塚原くんじゃ役不足だから、らしい。
二人がいれば充分だと思うし私も、できない訳じゃないけどムラがあるっていうか。
それでもいいって言ってくれたし、私も塚原くんに教えてもらえればいいなって軽い気持ちでOKした。
「あの、むむむさんここ教えて欲しいんですけど…」
「あ、うん」
隣にいる松岡くんが遠慮がちに私に声をかけてくれた。
彼もまた勉強は苦手なようで、四苦八苦しながらもひとつひとつ自力で問題を解いていく。
対照的なのが橘くんで、さっきから塚原くんと冒頭のようなやりとりを繰り返している。
祐希くんは悠太くんに教えて貰ってるけどなかなかやる気は無いようで、グダッと机に突っ伏したまま動かない。
私が松岡くんを教えるようにしてくれたのは塚原くんや悠太くんの気遣いなんだろうなと思う。(おかげで私の宿題はもうすぐ終わりそうだ)
「むむむさん解らないところある?」
「…あ、ううん大丈夫…かな」
祐希くんの隣から、空いていた私の隣に移動してきたのは悠太くん。
持ってきた彼のものであろうプリントは、教えていたせいもあってかまだ白紙のまま。
「じゃあ僕が教えてもらっていいですか」
「……え」
「冗談です」
本気か冗談かよく分からないそれに戸惑っている私を見て、悠太くんはほんの少し目元が緩む。
笑っているのか、そうじゃないのか。
悠太くんだけじゃなくて祐希くんもだけど、二人は表情の変化が少ないからよくわからない。
だけど何と無く、祐希くんに比べたら悠太くんの方が何だか表情が柔らかいって言うか、そんな気がする。
…やっぱり、よくわからないけど。
「よーっし帰るか!」
宿題が終わる頃には、外は綺麗な夕焼けで赤くなっていた。
「むむむさんバイバーイ!」
「遅くなっちまって悪かったな」
ペコリとお辞儀をしてくれた悠太くんと祐希くんと松岡くんに私も軽くお辞儀をして「また明日」と返した。
また明日、って。
当たり前のそれが、くすぐったくてそれから嬉しいと思った。
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